[呪いの連鎖]
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子供だったAは震えていたそうだ。死体を見た恐怖と、あの晩のおばさんの
奇妙な行動が重なって余計に怖かったらしい。
それからおばさんは人が変わったように明るくなっていた。前とは比べられない程に。
でもおばさんの笑顔は長くは続かなかった。
その家には2人の息子がいたが、2人ともその家にはいなかった。
次男は人柄もよく真面目で結婚をして家を構えていたのだが、長男は父親に似て
酒乱がたたり定職にもつけなかった。
父親が死に母親の面倒を見るという名目で長男は家に戻ってきた。
おばさんにとっては今まで以上に辛い日々になっていったのだそうだ。
昼間から酒を飲んでは母親に暴力を振るい、近所から何度注意されても直る事は
無かった。母親に対する暴力に次男も何度も抗議に来ていたようだ。
数日が過ぎた晩、Aは家族で食事をしていた。すると玄関を激しく叩き
父親を呼ぶ声がする。声の主は隣に住むお姉さんだった。
「向こうの木の下に人が倒れている」そう言ってお姉さんが震えていた。
すぐに父親が確認に向かった。そして確認して戻ると救急車を呼び、
子供達に一歩も家を出るなと言い残してまた出ていった。
しばらくして救急車がきて騒ぎは大きく鳴り始めた。窓越しに確認すると
今度はパトカーまで来ていたそうだ。
その騒ぎは一晩中続いた。翌日の朝、殺人事件が起こったことを知った。
殺されたのはあの家の長男だった。鍬で頭部をめった打ちにしての殺害だった。
めった打ちにした場所は家の裏だったらしいが、最後の力を振り絞って
人の目に触れる、あの大きな木の下までたどり着いてそこで息絶えたらしい。
家にいたおばさんが自分がやったと証言したため、
おばさんは警察に連れて行かれたが、翌日の昼間に次男が出頭してきて
おばさんは家に帰された。地元の新聞では大きく報道されたそうだ。
次男の判決はさほど重くはならなかった。動機が母親を助けるためだったのと
周りの証言やもしかしたら嘆願書も出ててたかもしれないらしく、
刑は思いの外、軽くすんだそうだ。
次男の刑が確定したその日、おばさんは家の木で首を吊って自殺した。
Aは学校にいたため、事件が起こったことは家に帰るまで知らなかったらしい。
その家では2年ほどの間に3人も人が死んでしまった。あの事件が起こった後は
その家には誰もいないはずなのに、それ以来その家の前を通るのを止めて
大回りして家に帰るのを選んだそうだ。自宅の玄関からも見える家なのに。
事件から5年くらいが過ぎた頃、あの家の次男は刑期を終えて戻ってきた。
近所の家を謝罪してまわり、礼を言いながらまわっていた。
Aの家にも訪ねきた。父親が対応して「苦しかったね。これから
頑張るんだよ」そう声をかけていた。
元からの次男の性格を知る近所の人達は優しかった。次男も一生懸命に働き
以前の暮らしを取り戻そうとしていた。
次男の妻も真面目で、主人が逮捕された後も別れることなく帰って来る日を
待ちながら家を守り続けていた。
2年後、そんな2人に子供が出来た。
近所の人たちはみんな喜んでいた。生まれてくるまでは。
産まれてきたのは男の子だった。でもその子は心臓に障害を持っていた。
それから次男はその子の手術のために、今まで以上に働いた。
子供を助けるために。それでも間に合わなかった。
男の子は生後半年でこの世を去ってしまった。
それから2ヶ月後、奥さんは焼身自殺をしてしまった。
後を追うように次男はあの木で首吊り自殺をした。
近所中に重い空気が流れて、やがてよくない噂が流れ始めた。