[呪いの連鎖]
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「2年前に上の兄貴が事故で死んだときもおかしかったんだ」
長男の事故の話だった。Aの長男は家族3人で移動中に
大型トラックに正面衝突を起こしていたのだ。
「あの時も即死だった、3人ともな」Aの顔は何かに
怒っているように見えた。

その事故は片側2車線の道路で起こった。
現場検証ではAの兄が反対車線に入り、走行した事が原因とされていた。
トラックの運転手の話ではよける間も無いくらいの出来事だったらしい。
Aの言う妙な事とは突然車線を変えたのもそうだし、ブレーキペダルと
フロアの間に猫が入り込んでいた事だそうだ。当然その猫も生きてはいなかった。
「ぶつかる寸前にブレーキをかけたんだろうけど、間に猫がいて効きが
悪かったのかもしれない。効いてても回避する事は出来なかったんだろうけどさ」
「猫なんか飼ってなかったのに」それを聞いて俺は途中で拾ったのかもしれない
そうAに言うと「それは絶対にない、猫嫌いだもん」・・・。

しばらくAは黙っていた。
俺は少しで気をまぎらわしてやろうと思い、買い物に行きビールなどを
調達してきた。
買い物から戻りAにビールを渡し、話の続きを聞いた。

「俺これで天涯孤独になっちゃった」Aはそう呟いた。
Aの母親は幼稚園の頃に無くなり、父親は4年前に無くなっていた。
もう家族で残されたのはA一人だった。Aの表情はとても寂しげに映った。
その表情が突然変わり、Aは俺に聞いてきた。
「なー呪いって信じる?」思わず呆気にとられてしまった。
「たまにテレビでやってる木とかにこんこん釘打ったりするやつ?」
俺はあり得ないという表情で答えてやった。

俺のそんな答えに動ずることなくAは喋り始めた。
「兄貴2人、そして父親も呪いで死んだのかもしれない。」
そこからその話は始まった。

Aは幼少の頃の話を聞かせてくれた。
そこは普通の田舎町でこれから話す不可思議な事件が起こりそうな
場所では無かったらしい。

Aの実家の近くには子供心に相手にしたくない家があったそうだ。
ただ単純にその家のおばさんの見てくれがもの凄く怖かったというのが
理由だそうだ。野球をしているときにたまたまボールがその家の
庭先に入ってしまい、しかたなく挨拶をしてボールを取ろうとしたときに
そのおばさんに鎌を持って怒鳴られたそうだ。そんなこともあり
その家は子供にとっては恐怖の対象でしかなかった。

小学2年の頃、夜中に我慢が出来なくなりトイレに起きた時の話では
ザク、ザクと物音が聞こえてきてトイレの小さな窓から覗くとそこには
鎌を庭にある大きな木に向かって、何度も突き立てるおばさんの姿があった。
とにかくその光景があまりにも怖すぎてその晩は寝ることも出来なかったらしい。
翌日、学校に向かう途中で恐る恐るその木を確認すると確かに
無数の傷と大きな釘が1本刺さっていたそうだ。

子供の頃はただ単純に怖かっただけなんだけど今思えばあのおばさんには
同情するところはかなりある。その家の主人はもの凄い酒乱で毎晩のように
飲んでは暴れていた。あの当時は精神的にかなり参っていたんだろう。
Aはそう言いながら話を続けた。

それから数ヶ月が過ぎ、最初の事件が起こった。
下校途中にAと3人の子供達が、あの家の大きな木の下に人が倒れているのを
発見した。4人で最初は寝てるのかとも思ったらしい。それでも気になって
他の子が親を呼んで確認させたところ、すぐに救急車が呼ばれた。
倒れていたのはその家の主人だったそうだ。すでに息はなく死因は心臓発作との
事だった。近所の人の知らせで農作業に出かけていたおばさんも呼び出され
すぐに病院に向かっていった。

続く