[生け贄]
前頁

シゲじいさんはもともと海の男だったんだけど、とうの昔に引退して気ままな道楽生活を送っている人だった
俺がガキの頃の時点で90超えてたと思うが、口は達者で頭もしっかりしてた
奥さんもずいぶん前に亡くなってて、子供のほうは東京に出たっきり正月や盆にも帰ってこない
だから俺らの遊び相手をして寂しさを紛らわせてたんだと思う

豪快なじいさんで、俺との木登り勝負に余裕に勝ったり、エロビデオ毎日観てたりと、俺にエロ本読ませてくれたりと
殺しても死なないんじゃないかというような人だった
でもそんなじいさんもさすがに死ぬときは死ぬ。俺が中学生のときに病気になって半分寝たきり状態
夏休みのときに実家に長期滞在したんだが、じいさんの病気を知ってからは親戚付き合いそっちのけで
じいさんの家に見舞いにいきまくってた

じいさんはもう自分は長くないからと、昔話を聞かせてくれた
そのときじいさんの話を聞いたのは俺と弟だったわけが
あれを子供に聞かせていいような話だったのかとあの世のじいさんにツッコミを入れたい

じいさんの話は、生贄の話だった

じいさんは、昔ここらへんではよく生贄を捧げていたとかぬかしやがる
それも何百年も昔ってわけじゃなくて、昭和初期から中期に差し掛かる頃まで続いていたとかなんとか

俺「いや、そげんこと言われても……」
弟「……困るし」

俺たちの反応のなんと淡白なことか
でもいきなりそんなこと話されても実感沸かないし、話されたところで俺らにどうしろと?って感じだった

俺「生贄ってあれだろ? 雨が降らないから娘を差し出したりうんたらかんたらとかいう……」
弟「あと生首棒に突き刺して周りで躍ったりするんだよな?」
じいさん「ちげーちげー(違う違う)。魚が取れんときに、若い娘を海に沈めるっつーんじゃ」
俺「あー、よく怖い話とかであるよな。人柱とか」
じいさん「わしがわけー頃には、まだそれがあった」
俺「……マジで?」

じいさんの話はにわかには信じられないものだったが、まぁ昔だし、日本だし……
そんな感じで当時若い姉ちゃんの裸よりも、民俗学だの犯罪心理だのを追求することに生きがいを感じている
狂った中学生だった俺はショックではあったが受け入れてはいた感じ
弟のほうはよく分かっていないような感じだった。多分漫画みたいな話だなーとか思ってたんだと思う

生贄を捧げるにしても、なんかそれっぽい儀式とかあるんだろうけどじいさんはそこらへんの話は全部端折った
俺としてはそっちのほうも聞きたかったんだけど、当時若造だったじいさんも詳しいことは知らないそうだ
当時の村の代表者(当然、既に故人)とか、そういう儀式をする司祭様みたいなのが仕切ってたんだろうけど
そのへんのことも知らないらしい
じいさんが知っているのは、何か不可解なことが起きたときや不漁のときに決まって村の若い娘を海に投げ込んでいたというだけ

続く