[ヤドリギ]
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そんなある日、仕事先のバイト君が自分を飯に誘ってきた。 
あんまり職場の人間と行動をともにしないバイト君からの誘いに驚いたが、断る理由もなく、バイト君と居酒屋へ。 
あまりお互いのことを知らなかったこともあり、自己紹介的な話をしつつ、二品、三品食ったところでバイト君が切り出した。 
「僕ね、あんまり人と飯に行くの、好きじゃないんです。その理由わかります?」 
「はぁ?なんで?」 
「例えば3人で居酒屋行ったりするでしょ、でも僕にだけは3人以上の人数が見えるんです。」 
「・・・はぁ。」 
霊感商法ってやつですか。正直あきれたのと同時にバイト君の誘いに応じたことを後悔した。 
「たいていみんな信じてくれないし、僕も見えちゃうとしんどいし、めったに人には言わないんですけどね。」 
自分の考えを見透かしたようにバイト君が苦笑した。 
「でも、あえて言いますね。ミナトさん、あなた日替わりで色んなもの連れすぎですよ。」 
何言ってんの、こいつ。 
何も言葉が出ない自分に対して、バイト君は静かに続けた。 
「ミナトさんは、まるでヤドリギみたいに色んなものがやってきては離れていってます。 
 それ自体は問題ないんですよ。ミナトさんはどうやら見えてないみたいでまったく気になってないみたいですし。」 
バイト君は下戸だそうで、ウーロン茶を一口飲んで続けた。 
「でも、時々僕が同じ部屋にいるのがつらいくらい強いものがしがみついてるときがあります。もう見てられません。専門家に見てもらったほうがいいですよ。」 
自分は唖然としたんだが、専門家=精神科=基地外 
そういわれた気がしてな。 
「病院なんか行く必要ねえよ!」ってどなってしまったんだな。 
でもバイト君はひるまなかった。 
「信じてもらえないのは分かります、でも今のままだといつかミナトさんに実害があるかもしれないんです。 
 時々ミナトさんの周りで温かい空気を感じるんです。残業で遅くなった夜とか。 
 ミナトさんの相談に乗ってくれてた人いませんか?その人が心配のあまり気を送ってくれて守ってくれてるんですよ。」 
むっさん。 
とっさにむっさんの顔が浮かんだ。 
自分はそのまま、バイト君を連れてむっさんの店に向かった。 
久しぶりに会ったむっさんは驚くほどやつれていた。 
自分の顔を見るたび「おせえよ!」と真顔でどなった。 
店にはたまたま他に客もなく、自分とバイト君、むっさんの3人だけだったが、むっさんのそんな顔を見たのは初めてだった。 
「あーミナトさん、この人ですわ。」とバイト君がささやき、バイト君はむっさんになぜ店にやってきたかを手短に説明した。 
むっさんは自分たちをカウンターに座らせ、自分は料理を仕込みながら話し始めた。 
「俺な、昔から霊が見えたり、ちょっとした霊なら追っ払ったりできてたんだ。 
 お前にもやっったことあるだろ、背中さすったり叩いたり。なぜかアレで離れていくんだ。独学だし理屈はわかんないけどな。」 
むっさんの暖かい手を思い出した。 
「でもお前が始めてうちに来たときはびびったよ。ジジイやガキ、犬猫、はては何か分かんないものまで背負ってたからな。 
 これは俺の推測だけどな、お前は色んなものを呼んじまう体質なんだろ。色んなものがお前については離れていく。 
 例えるならヤドリギみたいなもんだな。 
 お前の生まれた土地や血縁の影響かもしれんが、素人の俺にはわからん。」 
バイト君と同じようなことをむっさんも言った。 
「もうひとつ分かってるのは、おまえ自身には何もないのに、周りが影響を受けるってことだ。 
 人間ある程度の霊感を持ってるやつはごろごろいる。でもお前といると、それが増幅されるんだ。 
 俺も、お前をここに連れてきてくれたこのバイト君も、今までお前の知らないところで影響を受けて霊におびえてたやつはいるはずだ。」 
小学校のAちゃんや中学の同級生、高校時代の出来事もそうなんだろうか・・・。 
むっさんに話してみると「おそらくそうだろうな。」とあっさり言った。 
続く