[じいちゃんの話]
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あの顔からするとじいちゃんはかなり焦っている。
「じいちゃんっ?」
俺は暗闇とじいちゃんの焦りの表情を見て半ばパニックに陥っていた。
「しっ、黙っとれ!」
じいちゃんが小声で、強く俺に言い聞かせた。
じ「マサ、今から出口に行く。それまで息止めぇよ。」
俺「はっ?息と、止めるっ?」
じ「ええけぇ早よぉせえ!出口に着くまであれから目を離すなよ!」
あれとは祠の事、だが訳が分からない。何故息を止めながら祠を見て出口まで向かうんだっ?
その時はパニくりながらも言われたとおりにした。この時は暗闇に目も慣れてきだしたから大体の輪郭は見えている。
息を大きく吸い込んで(もちろん途中でむせた)すぐ、異変は現れた。

祠の扉から変な影の様な物がニュルっと出てきた。

「それ」を見た俺の動きは一瞬にして固まった。もう思考回路はショート寸前。
よく見るとそれは人の形をしていた。暗闇よりも暗い色。動きは鈍い。
左右に揺れたり、突然倒れたかと思うと四つんばいになって蜘蛛みたいな
動きをしたり、俺の文章力では表しきれない程気持ち悪い動きをしていた。
初めて見る「それ」は恐怖どころか興味を抱かせた。
だが、危険なものに変わりはない。明らかにこの世のものではなくて
俺の脚はがくがく震えていた。「それ」から目を離せないでいると、じいちゃんが俺の服の裾を引っ張って出口まで後ずさるように促した。
幸い奴はこんな近距離に居る俺達に気付いていない。
多分息を止めるように言ったのはこいつに気付かれない様にする為だったんだろう。
俺達はなるべく足音を立てずに出口にたどり着いた。出口からそっと降りる時まで奴から目を離せないでいた。
奴が動くたび天井裏で不気味な足音がなり続けていた。

俺は部屋に足をつけた瞬間、じいちゃんを置いて居間まで猛ダッシュした。
電気をつけて、テレビのスイッチを入れて
ついさっきまで居た異次元ワールドから俗世間へと必死になって逃げ込んだ。
すぐにじいちゃんが居間にやってきた。

「見たろう、凄かろうがアレ。」
じいちゃんは俺の怖がる姿を見てご満悦という表情をした。
あんなものを見せられた俺はたまったもんじゃない。
あれに気付かれてたら絶対に命の保障はなかった。
間違いない、絶対そうだ。
「何なんよあれっ!じいちゃんホンマ何がしたいん!?」
興奮した俺は切れながらじいちゃんに言った。
じ「がはははっあれな、先祖に恨みを持っちょる霊で
  わしも詳しくは知らんのんじゃが
  あまりにも危ないけぇってウチの先祖(霊媒師?)が祠に祀って 
  あれを天井裏に閉じ込めとっての、黒い襖は結界みたいなもんよ。
  安全の為に近くのお寺さん(神社だったかも?)に頼んで作ってもらった。
  名前言ったらいけんのは名前を聞いた人がアレに憑かれるからなんじゃ。」
憑かれる…(=死と隣り合わせ)想像を絶する言葉に俺は気が遠くなった。
しかしそこで疑問が生まれた。
俺「…でもじいちゃんは、名前聞いとるんじゃろ?
  それでなんで無事なん?」
じ「秘密。」
その後何度も理由を聞いたが何も教えてくれなかった。

続く