[愛の呪い]
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「千歳は今も苦しんでる。生死の境をさまよってる。
 それでも絶対助からないんだよ。だから、せめて一刻も早く楽になって欲しい」
泣くことも無く、ただポツリと、武久は言った。
「お前さあ、信じろよ!千歳ちゃん、助かるって!信じろよ!」
俺のほうが先に泣いた。泣き虫すぎるだろ・・・orz
本当にキレた俺を、妹がなだめた。「落ち着いて、落ち着いて」って。
「お兄ちゃんの気持ちも分かるけど、武久君の気持ちも分かってあげて。
 助かる可能性は無いって言われて、考えて考えて、少しでも苦しむ時間を減らしてあげようって、
 武久君の考えた方法なの」
妹も泣いた。俺はおとなしくなった。
「・・・でもさ、安楽死とかもあるじゃん」
「それは出来ないんだよ。やろうと思えば出来るけど」
「なんで?」
「母親にバレたんだ。病気のこと。それから狂ったように、ずっと千歳のそばを離れない。
 管を抜こうとしたら、怒って叫んで、俺の手を引っかいて、噛み付いて・・・」
空気が静まり返った。
話す言葉が無かった。よほどの修羅場だったのだろう。
「頼むよ。このままじゃ母親も自殺する。自然と死ぬまで待つって聴かないんだよ。
 自分たちから千歳を殺すことなんて出来ないって言うんだよ」
俺はためらった。妹を呪う。聞いたことも無い話。
だいたい呪い自体効くかも分からないのに、そんなことにまですがるなんて、
俺は複雑な心境だった。
「たのむから、俺に千歳を呪わせてくれ」

武久は土下座した。
「分かったよ。効くかなんて保証は無いから、知らないけどな」
俺もそこまでされたら承知せざるを得なかった。
「姉ちゃんたちにバレたら、絶対止められるから・・・」
俺と妹だけで、家にあった釘とかなづち、白装束みたいなの(?)を
用意した。千歳ちゃんの髪の毛と写真は、武久が持って来てた。

真夜中、俺たちは裏の森へ行った。
裏の森には祠があって(俺らはババさまとかババさん、ベベさんとか呼んでる)
それが俺の神社で一番強い呪いの神様だ。
その祠の真正面にある一番近い木を選んだ。
「本当にやるのか?」
最後に俺が聞くと、武久はこっくりうなずいた。
ワラ人形を押し付けて、釘を順番に打つ。
武久は息をそーっと吸い込み、目を閉じて勢いよく一回目を打った。

カーン カーン カーン

高らかに音は森の中に響く。妹が泣く。
俺はどうしようもなく、武久を見つめていた。

続く