[鬼]
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僕は震える手でまた襖を開け、僕たちは廊下に出た。
そして、僕たちはできる限り音を立てずに移動し、隠れられる部屋を探し台所まで来たその時、

コツコツコツ・・・

足音が背後から近づいてくるのを感じた。
Uは悲鳴を上げる寸前だったが、なんとか押さえた。
僕たちは横の廊下に入り、近くの部屋に入った。

裸電球が黄色い薄明かりを放っていた。
それに照らされ・・・無数の壁の穴、引っ掻き傷が露になった。
何かが暴れた痕のようだった。
僕は戦慄した。
ここはもしかして、あの部屋なんじゃ・・・
その時、

ヒタヒタヒタ・・・

今度は裸足の足音が近づく。それは真っ直ぐこちらに向かって来た。そして扉の前に来て、

カチャ・・・

扉が開き、おじいさんが現れた。
「早く逃げろ!」
小声だが危機迫る口調だった。
その時だった。

ガスッ!バタッ・・・

何かがおじいさんを強打し、彼はその場に倒れた。
そして、入口に別の人影が現れた。

右手にバットを持つ、ずぶ濡れの・・・Uのお母さん。
その形相は正に「鬼」のようだった。

「なんで、生きている」

お母さんが呟いた。
その声は冷たく、激しい憎しみが込められていた。
「・・・お前は殺したはず」
お母さんが殺した?
「死ね」
僕「え?」

「死ねええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

お母さんが僕目掛けてバットを振り下ろす!
間一髪でそれを避ける。
ガンッ!と床が大きな音を立てる。
「逃げろ!!」
僕はUに叫んだ。
しかしUは根が生えたようにその場から動かない。
「早く!!」
再びに叫んだその時、

ガンッ!

脳天に衝撃を受けた。
倒れる一瞬、Uが入口に走るのが見えた。
床に倒れた僕をお母さんが見下ろす。
その無表情さに鳥肌が立った。
少しの間、僕とお母さんは見つめあった。
そして、お母さんは目を見開き顔を歪め、ぞっとするような笑みを浮かべた。
朦朧とする意識の中、バットを振り上げる姿が見えた。
これ程死を身近に感じたことはなかった・・・その時、

ダダダダダダ!

誰かが走ってくる。
お母さんが後ろを向いた瞬間、

バリンッ!!・・・ドサッ・・・

お母さんが倒れた。
僕の視界に多数のガラスの破片が見えた。
Uが、ビンの口の部分だけを持って立っていた。
そして、僕に駆け寄ってきた。
U「大丈夫!?」
それから僕はUに支えられながら家を飛び出し、雨でずぶ濡れになりながら丘を下り、一番近い家に助けを求めた。
そしてすぐ、警察に連絡した。
空は白み始めていた。
30分程で警察が僕たちの元に到着し、僕たちは病院に直行し、他のパトカーはUの実家に向かった。

翌朝、検査入院でベッドに寝ていた僕と付き添っているUの元に、Uのお父さんが駆けつけた。
警察が実家に入り、おじいさんが無事保護されたらしい。
しかしUが「お母さんは?」と尋ねると、お父さんは俯いた。
「お母さんは、ガラス瓶で、おそらく自分で首を切って、死んでいたらしい」

続く