[車椅子に座るモノ]
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数年前から使われなくなったとは言っても管理はしてるのか
別館の中はわりと綺麗だった。
管理が楽なようにだろうか鍵はかかってなかったので自動ドアの部分を
手動で開けて中に入った
俺が入院してたのは三階の一番端にある病室だった
ちなみに別館も本館も五階建てだ
エレベーターが使えなかったので階段を使った
電気は止められてるんだから当然といえば当然なんだけど・・・
いやこれは関係ないから省くとしようか。

まあそんなこんなで三階について自分がいた病室に行ってみたんだ
ちょっと懐かしい感じがして、ちょっと寒いって言うのか寒気を感じた
方向のある寒気って言い方もおかしいけど、そんな感じ
そっちの方角にはね。体験談で話したトイレがあるんだ
件のトイレには用事があった。
というかそれが本命だったから俺はトイレの方に向かった。
そしたら変なんだ。
綺麗だった室内がそこに向かうにつれて汚くなってるというのか
物が地面に落ちてたり、壊れてたり、そういうものが多く見かけるようになった
壁のひび割れとかもそんな感じに増えていってるような気がした

トイレの近くにはエレベーターがあったから物の運び出しとかがあって
他に比べて乱雑な感じになってるんだなと俺はそう思うことにした
トイレに入って手洗い場の割れた鏡を見る
鏡には俺が映ってるがもちろん首元に手形のようなアザはない
そのまま奥に進む
右側には小便用のトイレ、左側には大便用の個室・・・・
それと真ん中に車椅子があった

その車椅子見たときね。恐くてすぐにトイレから逃げた
フラッシュバックっていうのかな。あの看護婦さんもいたような気がしたんだ
逃げたあとで思った。
今は昼間。トイレには光も結構入ってきてる。そこまで恐くない
なにより、いた気がしただけでいなかった
車椅子だけだった
そう自分に言い聞かせて忍び足みたいにソロソロとトイレに戻ってみてみた
恐かったんで、そっと覗きこむように車椅子のあった場所を見た・・・
たしかにそこには車椅子があった
折り畳まれてたり、横になって倒れてたり
そんなことにはなってなくて
誰かが座ってるように開いて足を乗せる部分もしっかり空けてあった・・・

俺以外誰もいない・・・当たり前だけどそれを確認して車椅子の
置いてある場所まで俺は歩いて近づく
そこで俺はまた寒気を感じた
トイレに車椅子ってだけでも場違いなのに、その車椅子が置かれてたのは
俺が子供の頃に隠れた個室の前だったんだ・・・・
車椅子の向きもおかしかった
個室の方に向いてたんだ。
トイレのところがどれだけ狭いか思い出して欲しい。
普通車椅子を横に置くほどスペースはない。縦ならわかる
だけど車椅子は横を向いて・・・・個室を見るように置いてあった

もしこれを人が置くとしたら縦に車椅子を押してトイレに入って
その状態で車椅子だけを横に方向転換させるしかない
これだと車椅子を持ち上げる必要がある
だって車椅子を横におけるスペース自体はあっても
人が車椅子を持ってる状態で横に出来るスペースがないんだから・・・

車椅子をこのままにしておくと個室の扉も開けなかった
気持ち悪い気持ち悪いと思いつつも俺は車椅子を持ち上げてどかした
そうやってどかしたことを後になって後悔したんだが・・・・
そのときはどかしてしまったんだ
邪魔だった車椅子も退かし終わり、目的だった個室の中を拝見すべく
俺は個室の扉を開けて中を見た
俺の記憶ではそこには小さな『助けて』って文字がまばらに書いてあった
壁中にまばらに『助けて』って小さな文字で書いてあった
そう記憶してた
だけど実際に開けて見たら赤色がびっしりと壁中に塗り潰されてた・・・

続く