[車椅子に座るモノ]
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病室の入り口がどうなってるか知ってるか?
場所によって少し違うと思うが大抵は扉なんてないんだ
俺の入院したところでは消灯前にカーテンを引いて中を見えなくするだけだった
俺は子供で怒られると思って隠れた
でも誰だろ?って気になってカーテンの下の隙間を覗いて見てたんだ

そうしたらゆっくりと、車椅子がキィ・・・キィ・・・って音をたてながら
隠れてる病室の前を通ったんだ
車椅子を押してる人がいて、履いている靴で看護婦さんが押してるんだって
俺もわかった。
だけど
何故か俺は病室から出れなかった。
怒られるからじゃない。すごく恐かった、だから出れなかったんだ
でもこれで話が終わるわけじゃない

車椅子と看護婦さんが病室の前を通り過ぎるのを俺は待った
キィ・・・キィ・・・っていう音がしなくなるまで隠れ続けた
そうして音が聞こえなくなるのを確認して俺は自分の病室に戻った
足音を立てないように静かに静かに歩きながら
あと二つ三つ先に自分の病室があるというところで
またキィ・・・キィ・・・っていう音が聞こえてきた
おかしかった
だってあの車椅子が通り過ぎた方向は病室から見て左
俺が向かっていたのは病室から見て右
音が聞こえたのは俺が向かっている方向からだった・・・

たしかにそこの病院の作りからすればおかしいことじゃない
ナースステーションを中心に#のような廊下作りになっていたから
ナースステーションを回って反対側の廊下から来ればありえる
だけど距離にするとけっこうあった
走ったりしなければさすがに追いつけない
いや・・・前に来てるんだから追いつくだけじゃ無理なんだ
追い越さないといけない
それも足音をたてないで車椅子も音をたてないでだ

俺は恐くなってさっき通ってきた道を戻った
でも音は変わらずに
キィ・・・キィ・・・
ってついてくるんだ。
どうしてついてくるのか分からなかった
恐くて恐くてどうしようもなくって
気づいたらトイレの個室に隠れてた
でも・・・・音は止まらなかった
トイレのところにも車椅子が入ってきて
少しずつこっちに近づいて来るんだ
俺はトイレに入って一番奥のところに隠れてたんだ
キィ・・・キィ・・・
って音は俺の隠れてた個室の前で止まった

目を閉じて耳を塞いで俺はじっとしてた
そうしてどのくらい時間がたったのかわからないけど
突然カギを掛けたところがガチャガチャ鳴り出した
すごく力を入れて動かしてるみたいで壊れるんじゃないかって思ったほど
それもすぐに収まって・・・ふと上に視線がいった
そこにね
ぐちゃぐちゃになった女の人の顔があった
なんか肉がただれてるような切り傷だらけみたいな顔
俺は恐くなってカギをあけて個室から出た。
でもそこには何もいなかった

まだ話は終わらない
終わらなかったんだよ。
だって、個室を出たあとにまたあの音が聞こえたんだ
トイレの入り口の方から
キィ・・・キィ・・・
って車椅子の音が聞こえたんだ
じっと僕は入り口の方を見ていた
すると車椅子が通りかかって・・・・そのままこっちに入ってきた
看護婦さんが車椅子を押しながら僕の方に近づいてきたんだ・・・
暗くて看護婦さんの顔が見えない。
車椅子には誰かが座ってた

続く