[車椅子に座るモノ]

あれはまだ俺が小学生高学年のときの話だ
俺の片目は生まれつき視力が低くてな。
斜視だったかなんだったか……
まあそれを矯正するために手術をするってことで
一月ほど入院することになったんだ

風邪を引いたりした時は近場の病院に行けば済んだんだが
そのときは手術ってこともあって数キロほど離れた場所にある大きいほうの
病院に行くことになったんだ。
駅前の方にも病院はあったが、そっちじゃなくて山の方にある病院に行くことになったんだ
理由は知らないけどな。

まあそんなわけで俺は山の方にある病院に入院することになった。
手術前の検査期間と手術後の検査期間あわせて約一ヶ月の入院。
正直暇だった。
友達は入院初日に着たらそれ以降全然来ないし、両親も仕事の合間に
来るくらいだったから大抵は一人でいた。
まあ患者ってのは大抵そんなものなんだなって今なら思える
でも子供時代のことだ
一人ってのが寂しくてしょうがない。
昼間ならまだいいさ。優しい看護婦さんとかが話し相手になってくれたりした
携帯ゲーム機なんて持ってなかったし、楽しみはそのくらいだった

だが夜になると看護婦さんも仕事場に戻る
あたりは真っ暗
なんせ消灯時間過ぎたら光はまったく無い。
あるのは非常口の薄明るい緑色と窓から見える星くらいのもの
山の中だったしな。
そうして手術も終わって残るは術後の検査期間を終えるのを待つばかり
そんな残り数日の夜にちょっと不可解な出来事に遭遇したんだ

消灯時間を過ぎた病院ってのは本当に静かなんだ
聞こえるのは時々見回りをしている看護婦さんの足音と他の患者さんの咳くらい
それ以外まったく音がしないんだ。
山の中ってこともあって若い人たちより高齢者の患者さんがずいぶん多かった
そのせいもあって消灯時間を過ぎると全然物音がしないんだ
何故かその日に限って俺はすぐには眠れなかった
なんかいつもと変わらない夜なのに、すごく恐いっていうか不安だったんだ
それもあって目が冴えてて、いつもなら寝てる時間だったのに起きてた
そうこうしてるうちにトイレに行きたくなってきて
でも病室から出るのは恐い。
部屋からそっと廊下を除くと足元にある非常口の薄緑色のやつだけしか光は無い
すごく恐かった。
でもトイレには行きたい
それでついに辛抱できなくてトイレに行くことにしたんだ
たしかあのとき、他の病室の前を通らなくちゃトイレには行けなかった
それで他の病室の前を通り過ぎるときに
ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・
っていう規則的な電子音がしてた
呼吸器をつけてる人もいたから心電図の機械とかのやつだと思う。
それがまた不気味だった

それでも俺は勇気を振り絞ってトイレに行った
用を足して自分の病室に戻ろうとして廊下を足早に歩いてたとき
前の方からキィ・・・キィ・・・っていう何かが軋むような音が聞こえてきた
そんな音がするはずはないんだ
だって皆寝てて、さっき通った時だってそんな音はしなかった
でももしかしたら誰かが起きてるのかもしれない
そうも思った
だけど俺も子供だった。
皆寝てるのに僕は起きてる。寝てなくちゃいけないのに
見つかったら怒られる!
そう思ってしまってつい近くの病室に隠れたんだ

続く