[箪笥]
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俺の先祖は武士だったらしく、ある殿様の家臣だったそうだ。
ある時、小国と小国同士の戦が起きた時、自分たちも加戦したそうだ。
しかし、こちらに勝ち目が無いと判断した先祖は、逃げたそうだ。
後に自軍は負け、先祖只一人が生き延びたのだそうだ。
そこからはよく分らなかったが、なにかよろしくない事が起きて
一族を巻き込んだそうだ。
おそらく、呪いだろう。と、婆ちゃんは呟いた。
その言葉を聞いたとき、俺の中で何かを理解した。
婆ちゃんは続けた。
実はあの箪笥の中には骨が入っているそうだ。
その骨は誰のなのかは聞かなかった。もう大体理解していた。
婆ちゃんは話を終えると、泣き始めた。

四年生の夏。
やけに衝動の多かった夏休み。
この時をきっかけに、俺の最悪の日々が始まった。

俺の爺ちゃんは怪死している。
今までただの交通事故と聞かされていたが、ある日を境に
真実を教えてもらった。
やけに衝動の多かった四年生の夏休み。
その頃の足は酷い傷の量だった。

父が三年生の時、爺ちゃんは死んでしまったらしい。
34歳という、早すぎる死だった。
当然ながら俺は爺ちゃんにあったことすらない。
でも、残っていた古写真の中に一枚だけ、爺ちゃんが映っていた。
和服を着て眼鏡をかけた、威厳のある人だった。
父は頑固者だったから、親子だな、と思った。
亡くなる日のことだ。
爺ちゃんはその日は元気が無く、婆ちゃんは心配していた。
気になって爺ちゃんに聞いてみたところ、変な夢を見たそうだ。

焼け野原を自分一人だけが立っていて、辺りは何も無い。
そこをずっと走り回っているそうだ。
次第に、遠くから声が聞えてくる。
聞えないように耳をふさぎ、立ち止まる。
なんとなく、聞いていてはいけない様な気がするらしい。
突然、目の前に血溜まりができてきて、そこから
死者が群がってくる。たくさんの落ち武者。
目をつぶり、絶叫。そこで目が覚めたそうだ。
爺ちゃんも、俺と同じだった。
足にはいつも傷があったという。
その日の朝、布団は血まみれだったと言う。
婆ちゃんはそんな爺ちゃんのために、気分転換でもしなさいといった。
それがいけなかったのかもしれない。
婆ちゃんは、俯いて呟いた。

爺ちゃんは散歩をしたそうだ。
田舎の田んぼ道、昔の道。何の、変哲も無い。
田んぼの中で、陣取るように死んでいたそうだ。
胡坐をかき、堂々と畑の真ん中で事切れていた。
だが、その死に様は誰もが不思議に思った。
首が無い。
現場にはなくなっていた。当時殺人鬼などいなかった。
怨念というのは、ここまであるものなのか。
爺ちゃんの見た夢は、先祖自身じゃないのか。
首だけ持って帰ったのか。
俺の死に様も、そんな物なのか。
婆ちゃんが、言った。
「あれは『切った』じゃない、『斬った』だよ。」
その時、婆ちゃんは俺の死を悟ったようだった。
俺もそうなる、と言いたかったようだ。

だが、婆ちゃんも死んで、あの日から数十余年たった今でも不思議なのは、
父は未だに健在している。それに、足に傷が無い。


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