[扉の隙間]

現役教員です。
この時期は生徒の成績記入で忙しいです。
今月は22日が終業式と、例年に比べて早いのでなおさらです。なので先週あたりから残業が続いてます。
今までのテストの成績をまとめたり日誌を読み返して生活態度の評価判定したり、そんなこんなで帰りは8時くらいになります。
その日も職員会議が重なり「あー、こりゃ遅くなるかな」と覚悟して教室(自分の担当は4年生っす)で作業をしていました。
この頃は日の落ちるのが早く、それを意識してペースを早めに取り組んでいました。

ようやく男子の半分くらいまでいったので一息つけるか、と職員室にお茶をもらいに行きました。
四年生は三年生とともに校舎の2階にあるので1階の職員室に行くのはわけないです。
そこで気が付いたのですが、廊下に出て左を見ると階段があります。ところが階段といっしょに音楽室とかある別棟への通路もあるので、シャッターが下りていました。
仕方なくその奥にある、非常階段から降りて1階に行くか、と思ったわけです。非常階段をかつかつと下りていき、ちょっと不安になったものの1階の扉はすんなり開きました。
後は職員室へ行くだけです。
そこからが、自分自身わけわかんねー状況にハマるわけですが。

職員室に着くまでに3つの部屋の前を通ります。1つめが宿直の先生や用務員さんの泊まる部屋。
2つ目が生活指導室。と言っても使っている所を見たことはほとんど無いですが。3つ目は職員室の隣の、印刷室。
それらはこんな時間では開いているはずも無く、ただ職員室に明かりがついているのでまだ私のほかにも何人か残っているんだな、とぼんやり思っていました。
ところが、いきなり最初の宿直室の扉が少し開いていました。もちろん明かりはついていません。鍵をかけ忘れたのか? でも今日は宿直ないよな(明日は土曜日)と思い、それでも用務員さんが最後に点検して閉めるから別にいいや、と通り過ぎようとしました。

それでも気になるこた気になるし、第いち自分は臨時教員なもんでそこを利用した事も無く、ちょいと興味はありました。
ま、電灯ついてないんだし暗くてワカンネよなと、チラッと扉の隙間を見た時でした。

すき間に、眼が。
しかも片目ではなく、ひたいって言うか、眼と眼の間、中途半端なエリア。鼻筋もほんのり見えました。
言葉もありません。なんか、ぽかーんとして凝固してました。

ビシャン!!

扉が閉まったんです。でも、私はまだよく分かってなくて、「へ?」な気持ちでした。
すぐに、職員室から2人、先生が飛び出してきました。6年生の先生と、学年主任の先生です。2人ともさっきの音にびっくりしたようで、私を見るとすぐに声をかけてきます。
「あ、○○(私)先生! 何ですいまの!」
「あ、えーと、そこ」と私が指差した宿直室の扉を見て、2人が

無表情になったんです。
口がとんがっていたのがすすす、と閉じて、ちょっと間が空いて、私の手にある湯飲みを見て
「お茶ですか? 淹れてきます」と2人して職員室に戻ろうとします。
おいおい、こっちはどうすんの。中に中は誰か今日は何か使ってたでも中電灯ないし今も暗いし…。
見苦しいですが、その時の心境はまさにこんな感じでした。
とりあえずもう1度チラッと見て、職員室に行きました。6年生の先生は自分の机に向かっていますが、帰り支度を始めています。
主任も湯飲みを持ってきて、「それ飲んだら帰ろう。先生電車だよね? 駅まで送るよ」
「はあ。てか、あの、さっきの」
それを手で制し、「後で。な?」とうなずきあう2人。今更ながら気付いたのですが、職員室には他に誰もいませんでした。
仕方なくお茶をすすったのですが、間が持たないんですよ。熱いの苦手だし、差し向かいで私だけが湯のみ持ってズズズってどう考えてもツライ。
半ば無理やりにお茶を流し込むと、待っていたように湯飲みをとって流しに置き、そのまま電灯のスイッチに手が伸びる主任。
「ち、ちょっと待ってくださいよ。まだ閉めてない」
「いいから!」まるで「閉めて」が禁句かと思うほど激しい反応に、何も言えなくなりました。

続く