[マリツキ]
前ページ

「千里〜!遅くなってゴメンねぇ〜」
通りの向こうに、お母さんの白いワンピース姿が見えました。
「アッ、お母さんだ!!」
ちーちゃんは言うが早いか飛び出して・・・。

キキキキキィィィィーーーーーーーーーッ!! ガンッ!

その日、幹線道路で工事をしていたため、渋滞を嫌って
裏道を抜けようとしたトラックでした。

キャァァァーーーーーーー、千里、千里ぉーーっ!

私は靴も履かずに表へ出て駆け寄りました。
トラックの二つの後輪に頭を突っ込むように倒れている
ちーちゃんが居ました。小さな手足が、時々ピクッピクッっと
痙攣するように動き、タイヤの下には赤黒いシミが広がって
行きました。お母さんは、私に気付くと両肩にしがみつき
「なんとかしてぇ〜〜っ!なんとかしてくださぁ〜いぃ!!」
揺すりながら泣き叫びました。その時のお母さんの顔は
一生忘れないでしょう。いつも微笑みを湛えた優しい顔は
夜叉の様になっていました。
 お母さんは、呆然と立ちつくす私から手を放すと、倒れたままの
ちーちゃんを抱き締め、車の下から引っ張りだそうとしました。

・・・・・ブチッ・・・ンッ!・・・・・・・。
続く