[親戚の怖い話]
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本家は、倉から博物館行きのシロモノが出てくるような、由緒ある旧家。
農業と生業とし、あたり一帯の膨大な土地を持っていました。
そして、そこに大勢の小作人を住まわせ、働かせていたそうです。
本家の人間は、小作人たちに言うことを聞かせるため、暴力を使ったそうです。
その最たる暴力が、【拷問】でした。
小作人たちを拷問にかけるため、本家には専用の部屋がありました。
拷問部屋です。
あの大きな屋敷の中で拷問を受けながら、命を失った人も大勢いたそうです。
この拷問は、ずいぶん昔から行われていたとのことです。
しかし、先の戦争の終戦と同時に拷問の慣習はなくなり、拷問部屋も使われなくなりました。
それ以来、その拷問部屋は固く施錠し、【開かずの間】としたそうです。

『そして、人が近づかないように、扉の前に鎧を座らせてあるんだよ。』
え!?……鎧!?

しかし、報われない小作人たちの無念は、拷問をやめた程度では消えなかった。
本家の人間たちを許しはしなかった。
本家が気づかないうちに、本家に祟っているようなのです……。

親が続けて語ったのは、耳を疑うような本家の系譜でした。
そのとき生まれた従兄弟の子(=私の甥)は、男の子で嫡男。
その子が五体満足で生まれなかった。
詳しくはわかりませんが、内蔵に問題があるようです。
その父親(=私の従兄弟)も、本家の嫡男。
この人も冒頭で書いたとおり、先天的に骨が足りません。
外科的に人工の骨を埋め込んで、不自由ながらがんばっている。
その先代は、子供が生まれなかったので、分家からの養子(=父の兄)だった。
そうなんです、もっと早く、この不自然さに気づいてもよかったんです。
なぜ【分家】だけでなく【本家】の跡取りが、私と【従兄弟】の関係なのか……。
その前の代も、その前の代も、おかしなことがあったそうです。
生まれても生まれても死産だった代もあった。
生まれてきた子の精神面に問題があり、なかったこと(!)にした代も。
その度に、遠くの町から婿養子を金で買ったり、分家の子を養子にしたり。
その前の代も、その前の代も……。

そうなんです。
代々、跡取り(嫡子)がまともに生まれないんです。

『……マジで……?』
私は思わず……自分の家にある仏壇に目がいってしまいました。
私も戸籍上は長男(ひとりっこ)だけれど、早産で死んだ兄がいる……。
『本家が気づいているのかどうかしらないけどね。』
『分家はみんな気づいてるけど、とばっちりがイヤだからなにも言わないんだ。』
『だから、おまえが一人暮らしを始めたとき、親戚から遠ざけたんだよ。』
……そうだったのか、そんなことがあったのか。

あれから10年以上、私は他の親戚ともほとんど関わりを持っていません。
親の話では、本家は相変わらずだそうです。
まだ気づいていないのか、それとも気づいてどうしようもないのか。
もしかしたらこの話は、親戚一同の壮大な思い違いかもしれません。
この話が思い過ごしかどうかは、しばらくすればわかると思います。
いまはまだ子供の本家の跡取りが、将来健康な子を産んでくれればいいのです。
しかし、もしも次の代も、なにかあったら……。
親戚一同、ますます【祟り】を信じて疑わなくなるでしょう。
そして、一族みんながバラバラになっていくのだろうと思います。

私の家庭は、工場勤めの会社員を父に持つ、平凡な核家族でした。
だから、子供の頃は、こんな話の当事者になるなんて、夢にも思いませんでした。
ちなみに私もすでに家庭を持ちましたが、数年前に一人娘を病気で亡くしました。
関係あることかどうかはわかりませんが、疑いたくもなろうというもの。


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