[失った物と得た物]
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激しかった。俺は喧嘩なんかしたことがなかったから、人とつかみ合いで
争った事はない。だから、もしかしたらこれがバージンつかみ合いだったのかもしれない。
今井田は部屋に入った途端後ろから抱きつく俺を引き剥がそうとした。
今井田がもがけばもがくほど俺の腕に力がみなぎる。もう誰もとめられないのだ。俺自身ですら。
今井田を押し倒し、制服をまくりあげ、ブラジャーを拝む。強引に制服を引っ張ったからか、
ブラジャーから乳りんがかすかにはみ出していた。

乳りんがはみ出したように、硬く閉ざされていた扉の向こうから、今井田の本心もはみ出してきた。
「ねぇ・・・やくそく・・・・やくそく・・・・」
俺が今井田の服を脱がし続けている間に、今井田がボソボソとつぶやく。
「ぬぅわにをぉ?」
いちお聞いてみる
「なにがあっても、一緒にいて?」
俺は東京タワーを建築する術を知らない。しかし、俺の体はどうやら建築方法を原始的に会得していたらしく、
俺の下半身では東京タワーが経済成長期の象徴として君臨しはじめていた。
俺の人生もこれを期に経済成長するに違いない。俺は変わる。

その日、俺は今井田と一つになった。
自分の体外に、大切にしなきゃいけないものができた日だった。
俺は一生、ミドリを守る事を誓った。ごめん、調子にのって呼び捨てしちゃった。

次の日、俺は人生を悟ったような顔つきで登校していた。
昨日まで目線も合わせられなかったイケメン兄ちゃんやヤンキーにガンを飛ばそうと思ったほどだ。
しかし飛ばす理由も見つからないので、飛ばすのをまた今度にすることにした。
今まで自信がないせいか、地面ばかり見ていて歩いていた。
だからだろうか、正面をまっすぐ見据えて登校していると、不思議な光景が目に映る。
例えば、視界の右端には顔面水ぶくれでズブ濡れの女が立っている。

左を見れば、首が見当たらない6歳くらいの男の子が三輪車にのっている。
よくみれば首は背骨だけでつながっており、三輪車の後ろから転がって男の子についていっている。
俺が自信を失っている間に、世の中のみなさんは自己犠牲の精神が達者になっていたようだった。

学校につくまでの間、あきらかに死んでいないといけない人たちを数人見かけた。
さすがに話しかけることはできなかったが、俺の興味は彼らに向きっぱなしだった。

あたりをキョロキョロ見渡しながら学校の門をくぐろうとしたとき
ガシ!!!!!
何かが俺の肩をつかんだ。

振り返ると、そこには今井田が立っていて、なぜか申し訳なさそうな顔をしている。
普通なら、昨晩一つになった男と女だ、会ったと同時に手を繋ぎ女は男の肩に頭をのせて
感慨にふけるのが通例だろう。だが今井田は、申し訳なさそうなのだ。
「どうした?」
「ごめん」

何をあやまられたのかわからなかった。
「なにが?」
「見えてるんでしょ?」

今井田はそういうと、近場にいる死んでいなきゃいけない容姿の人間を見た。
俺達と同じくらいの学生で、長く黒い髪が似合う女の子が
左足と右腕を欠損した状態で這いつくばってうごめいている。
「なんだ、今井田も見えてるんだ」
「なんでだかわかる?」
今井田の声は無理に明るくしているようだったが、顔は泣き顔だった。
「童貞卒業したから?」
「馬鹿じゃないの!」

今井田は初めて俺を叩いた。ペシペシと叩くのだが、女の子叩きが愛くるしい。
俺はてっきり、童貞を卒業したら、人間ってのは幽霊が見えるようになるのだなと思っていた。
しかし今井田の説明によると、今井田の家系は代々霊感の強い家系で
今井田家の人間と性的関係を結んだ人間には、霊を視認できる能力が備わるそうなのだ。
軽い性病みたいなもんかと冗談交じりに霊感を手に入れた感想を述べると、
今井田は安心したようだった。俺が霊感を手に入れた事で今井田に恨みをもつことをしなかったからだ。


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