[呪い]
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師匠から電話で叩き起されたのは朝5時だった。
「なんですか!うー 朝っぱらから もう!」
昨夜はご馳走様ですの挨拶も忘れ、怒気をはらんで非難めいたうめき声を出す
俺におかまいなしに師匠は話し始めた。
「あれな・・・お姉さんだそうだ」
「は?」
「歩くが全部見た」
「え?」
歩くさんのエドガーケイシーみたいな能力については前に聞いた事がある。
師匠は寝付いた歩くさんの枕の下に写真をもぐりこませたのだ。
「例の友達の写真・・・あれな、あの姉さんの呪い・・と言うより生霊だな」
「ええ!?」
「だから黒い影だよ 道祖神なんかじゃない。 姉さんの生霊だそうだ」
「なんで・・・」
「親父さんが倒れたのは単なる脳梗塞で、それから後は遺産争いだそうだ。
土地の実力者で土建屋って言うと相当の金持ちだろう?」
「・・・・・」言葉もなかった。痩せてしまった薄い笑顔を思い出した・・・あの梓さんが?
「お前の友達が落とされたのか、落ちたのかはわからない、
ただ姉さんの生霊が取り付いて悪さしてたのは間違いないそうだ」
俺が黙っていると
「おーいて 歩くに本気で殴られたぞ 写真の女が髪を振り乱して目を
ギラギラにさせて家の中を走りまわるシーンを見て、相当怖かったらしい」
師匠らしいやり方だな、と思ったらそれで俺も笑いが出てふっと力が抜けた。
「だから言っただろ、人間さまの方が恐ろしいんだよ」
師匠はそれだけ言って切ってしまった。途方に暮れる俺に朝が静かに明けてきていた。

風の家族が離散状態で、梓さんと母親が財産分与で裁判をやっていると聞いたのはそれから10年も経ってからだった。
師匠はあの時ああ言っていたが、俺には家族和合を祈念した道祖神を壊した事に対して・・・
なにか因縁めいたものの様にも思えてしまうのである。


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