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[タクシードライバー]
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女性の受け答えが少しずつ遅れはじめる。言葉も途切れ途切れ。
気分が悪くなったのかも知れない、そう思い始めた頃、新見は気が付いた。
女性はシートに深く腰掛け、口は半開き、目はうつろ。そして・・・、その手は明らかにスカートの中にあった。
何気ない会話をしながらも、この女性は自慰行為をしているのだ。
今までにも堂々といちゃつくカップルに見せつけられた事はあるが、さすがに女性一人でというのは初めての事だった。
会話は続いているのだが、徐々に会話に吐息が混じる。
世の中には色んな趣味の人間がいる。この女性はタクシー内での自慰行為で明らかに興奮している。
新見は何も気が付かないふりをしながらも、動揺すると同時に興奮していた。
真面目そうな外見の女性が、タクシー内という密室で自慰行為をしている・・・。
不幸にも新見は勤務中であり、GPSにより会社から縛られている。何にしてもうかつに手を出せば、手痛い社会的制裁が下ることだって考えられる。
とにかく今は、目的地まで走らせるしかない。
女性の淫らな行為を記憶に焼き付けるように、耳をそばだて、ルームミラーでその表情を見ながら会話は続いていた。
徐々にスカートはめくれ上がり、会話は吐息の方が多くなった。
卑猥な話をしているわけではない。会話の内容は、あくまでも世間話。一度でも卑猥な方向に向かえば、新見自身の抑えが効かなくなる。
ミラー越しに見られている事は女性も気が付いていると考えれば、女性自身このアンバランスな状況を楽しんでいるのだろう。
スカートの奥、女性の手元が見えそうになる。それこそ、この状況を考えれば、下着をはいてないのかも知れない。
会話が吐息で支配されようとする頃、目的地に到着した。
女性はまだ少し荒い息を整えるようにしながら、運賃を払い、降りていった。
一つだけ気にかかるのは、5円玉を10枚、穴に糸を通してある不思議な小銭の払い方だった。タクシーで10円未満を使用するお客様は珍しい。
それも結んである5円玉なんて。
でも、そんな事より新見は興奮する気持ちの方が大きかった。タクシーを近くの公園に停め、トイレで自慰行為をした。
やっと気持ちを落ち着かせ、一休みして会社に戻るつもりだった。
多分、知らない内に寝てしまったんだろう。
新見は車内でふっと意識を取り戻した。
同僚から<先に上がるよ>とメールが来たのをきっかけに覚醒した。
時間を見ると3時。何かがおかしい。
さっきの女性を乗せたのが3時過ぎ。
「あぁ、夢だったのか・・・。俺も欲求不満なんだなぁ」
メーターを操作する事で、本日の累計データが閲覧出来る。
実車回数29。間違いない。やっぱり夢だったのだ。データは自動的に更新されるのだから、事実しか表示されない。
今日はもう切り上げる事にして、会社に車を走らせる。
途中で女の子2人組が手を挙げた。
相当、飲んでいる雰囲気で出来上がってる。
そして「あれ~?こんな物が落ちてますよ~?」
女の子が手にしたのは、女性物の黒いレースの下着。
新見は動揺したが、今までにあった入れ歯やペットなどの不思議な忘れ物の話をして、その場をごまかした。