[四隅]
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1 時計
2 時計
3 時計
4 反時計
5 時計
6 時計
7 時計
8 時計
9 時計
10 時計
・・・・・・

俺が回った方向だ。
そして3回目の時計回りで俺はポケットに入った。
仮にAが最初のスタートだったとしたら、時計回りなら1回転
目のポケットはD、そして同じ方向が続く限り、2回転目のポ
ケットはC、3回転目はB、と若くなっていく。
つまり同一方向なら必ず誰でも4回転に一回はポケットが来る
はずなのだ。
とすると5回転目以降の時計回りの中で、俺にポケットが来な
かったのはやはりおかしい。
もう一度図に目を落とすと、3回転目で俺がポケットだったこ
とから逆算するかぎり、最初のスタートはBの京介さんで時計
回りということになる。1回転目のポケット&2回転目のスタ
ートはCoCoさんで、2回転目のポケット&3回転目スタートは
みかっちさん、そしてその次が俺だ。俺は方向を変えて反時計
回りに進み、4回転目のポケット&5回転目のスタートはみか
っちさん。そしてみかっちさんはまた回転を時計回りに戻した
ので、5回転目のポケットは・・・・・・
俺だ。
俺のはずなのに、ポケットには入らなかった。
誰かがいたから。

だからそのまま時計回りに回転は続き、そのあと一度もポケッ
トは来なかった。
どうして5回転目のポケットに人がいたのだろうか。
「いるはずのない5人目」という単語が頭をよぎる。
あの時みかっちさんだと思って遠慮がちに触った人影は、別の
なにかだったのか。
「ローシュタインの回廊ともいう」
京介さんがふいに口を開いた。
「昨日やったあの遊びは、黒魔術では立派な降霊術の一種だ。
 アレンジは加えてあるけど、いるはずのない5人目を呼び出
 す儀式なんだ」
おいおい。降霊術って・・・・・・
「でもまあ、そう簡単に降霊術なんか成功するものじゃない」
京介さんはあくびをかみ殺しながらそう言う。
その言葉と、昨日懐中電灯をつけたあとの妙に白けた雰囲気を
思い出し、俺は一つの回答へ至った。
「みかっちさんが犯人なわけですね」
つまり、みかっちさんは5回転目のスタートをして時計回りに
CoCoさんにタッチしたあと、その場に留まらずにスタート地点
まで壁伝いにもどったのだ。そこへ俺がやってきて、タッチする。
みかっちさんはその後二人分時計回りに移動してCoCoさんにタ
ッチ。そしてまた一人分戻って俺を待つ。
これを繰り返すことで、みかっちさん以外の誰にもポケットが
やってこない。
延々と時計回りが続いてしまうのだ。
「キャー!」という悲鳴でもあがらない限り。

せっかくのイタズラなのに、いつまでも誰もおかしいことに気
づかないので、自演をしたわけだ。
しかしCoCoさんも京介さんも、昨日のあの感じではどうやらみ
かっちさんのイタズラには気がついていたようだ。
俺だけが気になって変な夢まで見てしまった。
情けない。
朝飯どきになって、みかっちさんが目を覚ました後、「ひどい
ですよ」と言うと「えー、わたしそんなことしないって」と白
を切った。
「このロッジに出るっていう、お化けが混ざったんじゃない?」
そんなことを笑いながら言うので、そういうことにしておいて
あげた。

後日、CoCoさんの彼氏にこの出来事を話した。
俺のオカルト道の師匠でもある変人だ。
「で、そのあと京介さんが不思議なことを言うんですよ。5人
 目は現れたんじゃなくて、消えたのかも知れないって」
あのゲームを終えた時には、4人しかいない。4人で始めて5人
に増えてまた4人にもどったのではなく、最初から5人で始め
て、終えた瞬間に4人になったのではないか、と言うのだ。
しかし俺たちは言うまでもなく最初から4人だった。なにをい
まさらという感じだが、京介さんはこう言うのだ。よく聞くだ
ろう、神隠しってやつには最初からいなかったことになるパタ
ーンがある、と。

続く