[恋人の幽霊]
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彼女の自殺を知ったのはその日の昼過ぎです、どうしても
昨夜の事が気になり彼女の家に電話をした所
「昨日深夜、近くの川に身を投げ自殺を謀り、発見が遅かった為
助からなかった、なんで死んでしまったの」と彼女母親に
涙声で告げられました、それを聞いた時のショックは到底
表現できません、正に頭をハンマーで打ち据えられた感じ
です、あまりの後ろめたさに、御通夜にも行けませんでした。
私はなんとか、彼女の事を忘れようと努めました、そして
彼女の死は自分の責任では無い、他に原因があったか、
彼女自身が原因なのだ、と自分に都合よく思い込ませました。
彼女の死を悼む思いよりも、死の直前彼女怒鳴り散らし、そして
そのまま自ら死に至った狂気に対する恐怖、少なくとも自分
がその引き金になってしまったのは否定できません、そして
彼女が自殺した同じ時間に、自分に伝えられた「死んでやる、
殺す」と言うメッセージ、それらの恐怖が遥かに大きかったのです。
それから2ヶ月程絶ちそのショックがようやく薄らいで来た頃
本当の恐怖が始まったのです、ようやく夜眠れるようになって来た
その晩、深夜にいきなり電話が鳴ったのです、実に悪い予感と
悪感が全身を走りるのを感じながら電話を見ると、電話が青白く
ぼんやりと光っています、恐る恐る電話を取ると、「ザァー、ザァー」
と水の流れる音と聞こえるか聞こえないか位の小さな声、ゾーッと
した私は慌てて電話を切り「これは単なる悪戯電話だ」と思い込む
様にしました、しかしそれから7日間その無言電話は続きました
決まって午前3時頃で水の流れる音と共に聞こえていた小さな声が
日毎に次第に大きくなって来ます、たまりかねた私は8日目から
夜、電話線を切って寝るようにしました、よく深夜に悪友から電話
がある私はできればそうしたくは無かったのですが、それから4日間
は何事も無く過ぎたのですが5日目の深夜3時、線を切っているはず
の電話が鳴り始めたのです、どうしていいか分からず兎も角電話を
取りました、悪戯電話であると思い込ましていた私は「おい!いい加減
にしろ、こんな事をして何が楽しいんだ」と電話口に怒鳴りました
すると今度ははっきりと「楽しい訳ないよー、苦しいよ、悲しーよー、
寂しいよー」、聞こえて来たのです、その声、口調は正しく死んだ
はずの彼女の物です、正に冷や水を浴びせられた様にゾーッとした
私は電話を切るなりなるべく遠くへ電話を蹴飛ばしました、しかし
しばらくして又電話が鳴り始めたのですもう、電話を取る勇気も
無く、頭から布団をかぶり震えていると、電話の音が徐々に近く
なってきて、不意に右腕を冷たい手に捕まれたのです、布団を跳ね
退けて見ると、いつのまにか電話が自分の手元に戻って来ていて、
青白く光っています、彼女の霊が電話に乗り移ったのでしょうか、
受話器を取ってもいないのに電話が彼女自身であるかのように
私に彼女の声で私に語りかけます「なんで来てくれないの、なんで
話をしてくれないのー」恐怖の為半狂乱になった私は再び今度は
寝室のドアを開け玄関に続くキッチンに出て玄関まで電話を蹴飛ばし
ドアを閉め、布団をかぶって震えながら夜を明かしました。
続く