[影]
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3人とも息が上がってハァハァ言っていた。
その時、A君が叫んだ
「おい!あそこ、トイレのほう!」
3人が一斉にトイレのほうに懐中電灯を向けた。
一気に明るくなるトイレ。一瞬だったが、影のような
黒いものが消えるのが見えた。
「いたよな?何か・・・」B君が口を開く。もちろん
僕にも見えていたので頷いた。
だがあまりにも影がはっきり見えたので
逆に恐怖はなかった。きっと僕達以外に、肝試しに来た
やつらがいるんだと、3人とも思っていた。
「おい!行こうぜ」とB君がエアガンを構えて走った。
もうその時は、霊的なモノを追う、というよりも、侵入者を
追いかけるような、映画のヒーロー気取りだった。
トイレの入り口の前まで来ると、SWATが突入するように
エアガンを構えて壁にもたれた。
B君が目で合図を送る。僕もA君も何も言わずに頷き、
一斉にトイレに懐中電灯を向けた。
ところが何もいなかった。
「おい!誰かいるっちゃろ?出てこいて!」と
B君が叫んだ。何も反応が無かった。
トイレは男女共同で使えるような作りになっており、
男性がおしっこする用の便器が2つ並び、
男女で使える和式の便器が1つあった。
隠れるとしたら、その扉付きの和式の便器がある
場所だけ。ところが、扉は開いており、中にはもちろん
何もなかった。
「おい、見たやろ?」とA君が確認する。
もちろん見えた。他に隠れそうな場所を探すが、
あるわけない。一気にまた恐怖が襲ってきた。

「これだよな?鏡って」
ふいにB君が鏡を照らしながら言った。
「4秒目閉じるやつだろ・・・」と、A君が周りを警戒しながら
言った。
「誰かやろうぜ?」とB君が言い出した。
僕もA君も例の”影”が怖くて、それどころじゃなかった。
「お前がやれよ。ここで見とくから」とA君が言った。
「お前らぜってぇ、ここにいろよ」とB君が念を押した。
「いかねぇいかねぇ。何かあったら助けるよ」と
A君がエアガンを構えていた。顔はにやけていたと思う。
そしてB君が目を閉じて、口に出しながら数を数えだした。
「1・・・2・・・」
後ろで見ていた僕に、A君が肩を押してきた。
口には出さなかったが、明らかにB君を置いて逃げようぜ
というような顔だった。僕は首を振っていたが、A君の押しに
負け、トイレから抜け出した。B君がいるトイレを後に、
一気に階段まで走る。逃げる足音に気付いたB君が
「おい!マジお前らやめろって!!待てって!」
とかなり焦った声で追いかけてきた。

既に階段で待っていた僕達は、向こうから走ってくるB君
を懐中電灯で照らしながら待っていた。その時、
「!?」僕とA君が何かに気付いて叫んだ。
「おい!逃げろ!早くしろ!早く!」思い思いに
叫び、B君が来ると同時に階段を下りて、
施設を抜け出した。それから走って近くの公園まで走った。
3人でぜぇぜぇ言いながら、ベンチに座った。
「はぁ、はぁ・・・マジお前らありえんて」
B君が息を切らしながら言った。
「わりぃ、まじスマン・・・」とA君が素直に謝った。
「で・・・何かあったの?」
何も知らないB君があらためて聞いてきた。
落ち着いてきたころ、A君が話し始めた。

続く