[影]
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「お前がさ、トイレから走ってきたやろ?そんときさ、
俺ら懐中電灯でお前照らしてたじゃん」
B君がうん。と頷く。さらにA君が続ける。
「そんときお前のでかい影映ってたんだけど・・・なぁ?」
と、急にA君が僕に目を向けた。僕は何も言わずに頷いた。
「お前の影の他にな、手がいっぱい写ってたんよ」
「はぁ!?」とB君が驚いていた。
「そのいっぱい写った手の影・・・何かお前を引っ張ろうと
してるように見えた」
「はぁ?ウソやろ!?だって誰もいなかったやろ、
何かあったらマジお前ら恨むからな」
とB君が睨んだ。
そしてその日は、A君から塩をそれぞれもらい、帰宅すること
になった。もちろん一人で帰るだけでも怖かった。
部屋でも明かりを消すことができず、ずっと塩とエアガンを
持って、ベッドの上に座っていた。
翌日、日曜日は何事もなかったように家で過ごした。
そして月曜日。いつもどおり学校へ行った。僕はいつも
遅刻ぎりぎりで行くので、教室に入ったときには、
先に来ている生徒でギャーギャー騒がしい。
その日はいつもと違い、一つのかたまりのような
グループができていた。何事かとそのグループに入ると、
「お、来た来た」とA君が僕を招いた。
「今さ、土曜日のこと話してたっちゃけど、お前も見たやろ?」
A君が、忘れようとしていたあの出来事を思い出させた。
どうやら”影の手”のことを話していたらしい。
僕も参加して話していたら、霊感の強い、例の奴が口を
開いた。
「お前ら、4秒数えた?」
それにA君が答えた。
「いや、数えたのはBだよ・・・なぁ?」
僕を見てきた。うんと頷く。
「あの噂には続きがあるっちゃけどね・・・」
例の奴が続けた。あの噂とは先に述べた、
鏡の前で4秒間、目を閉じて、目を開いたとき
鏡に女性が写れば、良いことがあって、
男性が写れば、一生呪われる。というやつだ。
どうやらその噂には続きがあったらしい。例の奴が
さらに続けた。
「4秒数えて目を開けて、女性ならいいんだけど・・・
男性だったらやばい。だけど、もっとやばいのがある。
それは、4秒数え終わるまえに目を開けたときだ」
僕とA君はぞっとした。もしかしたらあの時、B君は
数え終わる前に目を開けたかもしれない。
B君は珍しく学校にはまだ来ていなかったので、
定かではなかったが、4秒数える前に目を開けたら
どうなるかA君が聞いた。それに答える。
「うん・・・。4秒数える前に目を開けたら、鏡の中に
引っ張られる。あの鏡割れてたろ?だから、体も
バラバラになって引き込まれるらしい」
その時、教室のドアがガラっと開き、一斉に皆が見た。
そこには腕に包帯を巻いたB君がいた。
「どうした!?」と皆駆け寄る。
B君が言った。
「分からん・・・土曜の夜、家に帰ったら切れちょった。
たいした傷じゃなかったけど、血が止まらんかったからさ、
おおげさやけど、一応ね」
と苦笑いだった。
例の奴がはっとして、聞いてきた。
「お前らさ、塩かなんかもっちょらんかった?」
「俺が持ってたよ。Bにも振りかけてやった」
Aが答えた。例の奴が謎が解けたように、しゃべりだした。
「そういうことか・・・。俺がさ、前はなしたやん?友達と、
友達の兄貴で行ったってやつ。あれ、後から
聞いたっちゃけどね、何か友達の兄貴は途中で怖くなって
4秒数える前に目を開けたらしい・・・。それでな、
魔よけとして、塩をかぶってたって。だから足を切られた
だけで済んだのかもな・・・」
あれから数年。忘れようとしても忘れられない体験は、
今も脳裏に焼きついて、今もこうやって鮮明にカキコできる。
以上、ひと夏の経験でした。みなさん、影には注意しましょう。