[血 前編]
前頁

その先輩に、「京子」さんと同学年という人を二人紹介しても
らった。二人とも他学部だったが、学内の喫茶店と、サークル
の部室に乗りこんで話を聞いた。
「京子さん? あの人はヤバイよ。悪魔を呼び出すとか言って、
へんな儀式とかしてたらしい。高校生がそこまでするかって
くらい、イッちゃってた。最初は占いとか好きな取り巻きが
結構いたけど、最後はその京子さんとちひろさんしかいなく
なってた。卒業して外に出たって話は聞かないから、案外ま
だ市内にいるんじゃない? なにしてるんだか知らないけど」
「その名前は出さないほうがいいですよ。いや、ホント。ふざ
けて陰口叩いてて、事故にあった子、結構いたし。ホントです
よ。え? そうそう。ショートで背が高かったなあ。顔はね、
きれいだったけど・・・近寄りがたくて、彼氏なんかいなさそ
うだった」

話を聞いた帰り道、ガムを踏んだ。
嫌な予感がする。
高校時代から、怪我人が出るような「遊び」をしていたという、
「京介」さんの話と合致する。
山中ちひろというのは、京介さんが親しかったという黒魔術系
サークルのリーダー格の女性ではないだろうか。
間崎京子。頭の中でその言葉が回った。

それから数日、ネットには繋がなかった。
なんとなく京介さんと会話するのが怖かった。ギクシャクして
しまいそうで。
ある意味、そんな京介さんもオッケー! という自分もいる。
別に取って食われるわけではあるまい。面白そうではないか。
しかし「近づくな」と短期間に4人から言われると、ちょっ
と警戒してしまうのも事実だった。
そんな、問題を先送りにしただけの日々を送っていたある日。
道を歩いているとガムを踏んだ。
歩道の端にこすりつけていると、そのとき不思議なことが起こ
った。
一瞬、あたりが暗くなり、すぐにまた明るくなったのだ。
雲の下に入ったとか、そんな暗さではなかった。
一瞬だが真っ暗といっていい。
しばらくその場で固まっていると、また同じことが起こった。
パッパッと、周囲が明滅したのだ。
まるでゆっくりまばたきした時のようのようだった。
しかしもちろん、自分がしたまばたきに驚くようなバカではな
い。
怖くなって、その場を離れた。

次は、家で歯磨きをしているときだった。
パチ、パチ、と2回、暗闇に視界がシャットダウンされた。
驚いて、口の中のものを飲んでしまった。
そんなことが数日続き、ノイローゼ気味になった俺は師匠に泣
きついた。
師匠は開口一番、
「だから言ったのに」
そんなこと言われても。なにがなんだか。
「その女のことを嗅ぎ回ったから、向こうに気づかれたんだ。
『それ』はあきらかにまばたきだよ」
どういうことだろう?
「霊視ってあるよね? 霊視されている人間の目の前に、霊視
している人間の顔が浮かぶっていう話、聞いたことない? 
それとはちょっと違うけど、そのまばたきは『見ている側』の
まばたきだと思う」
そんなバカな。
「見られてるっていうんですか」
「その女はヤバイ。なんとかした方がいい」
「なんとかなんて、どうしたらいいんですか」
師匠は、謝りに行ってきたら? と他人事まるだしの口調で
言った。
「ついて来て下さいよ」と泣きついたが、相手にされない。
「怖いんですか」と伝家の宝刀を抜いたが、「女は怖い」の
一言でかわされてしまった。

続く