[触ってくるもの]
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声を掛けつつも私は後部座席をちらりと見た。
やはり後部座席には誰もいない…。
「あ…、すみません、大丈夫です。なんか彼女が取り乱しちゃって…。」
彼氏らしき男性はそう答えた。
彼氏の言葉を否定するように間髪入れず助手席の女性は錯乱した様子で叫んだ。
「誰かに触られたの!トンネルの中で後ろから誰かに!首元を誰かに触られたの!」
やはりこの車の後部座席には何かがいたみたいだ…。
私は彼らにお別れを言いその場から離れた。
もちろん私達の見たものは彼らに伝えずに。

友人Aを残した車に戻ると…
「あれ?Aがいない…。」

小便にでも行ったのだと思い私は運転席に乗り込む。
友人Aが戻ってくるのを車内で待つ事にした。
一分程、経ったくらいだろうか…
私がふと後ろに何かの気配を感じたと思った瞬間!
私の首元に誰かの手が触れた!
「おい!A、ふざけんなって!!」
そう言った瞬間、自分の口から出た言葉の矛盾に気付く。
友人Aはさっきの車の女性の台詞を聞いていない!
私はとっさに後ろを振り向くがそこには誰もいない…!
首元の感触も無くなっていた。

暫くして友人Aが戻ってきた。
「ん?どした?」
硬直した私を見て友人Aはそう尋ねてきた。
「いや…、何でも無い。」
私は煙草を一本吸い安全運転を心掛け帰路に着いた。

私達の見た後部座席の女性が旧伊勢神トンネルと何か関係しているのかは分からない。
しかしこのトンネルにはきっと何かあると感じさせられた出来事だった…。


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