[牛の墓]
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しばらくすると、室内の空気が妙にじめっ、というかじとっとした粘り気のある重苦しい雰囲気になりつつあるのを感じだした。
霊感の無い私ですら「あ、こりゃマズいかも」と思ったとき、こっくりさんをしていた女子部員とAの指先にある10円玉が不規則に、そしてめったやたらに動き始める。
「やだ…なにこれ…」
取り巻いていた私や、他の部員の顔色は悪いが、ランダムに動いて止められない10円玉に指を乗せた女子部員とAの顔色は青いのを通りこして白かった。
部屋の隅っこに誰か知らない人が立っている、ような気がするが身体が震えてそちらを見る度胸も無かった。別の女子部員が泣きだした。

「お前ら何やってるんだ!!」
突然大声がしたかと思うと、前部長であり昨年卒業したOBのB先輩が部屋に飛び込んできた。
B先輩は女子部員とAの頬に平手打ちを見舞うと、10円玉を鷲掴みにして網戸をあけて外に全力で投げ捨てた。
そしてこっくりさんに使った紙を持って合宿場の外へ出ていった。あとで聞くと紙は丸めてトイレの水に流してきたそうだ。

「冗談半分でもあーゆーのはやるんじゃねーぞ。おまえら」
B先輩はわりと霊感が強いらしく、寝ていたところ気分がざわついて吐き気がして目が覚めたらしい。
それにしても豪傑だ。
「もうおまえらおとなしく寝ろ」
Aはまだ放心したような表情だったが、のろのろと立ち上がって男子用の宿泊部屋に向かいかけた。
「あ、それとな」
その背中にB先輩が声をかける。
「悪いことはいわんから、ほどほどにしろよ」
Aは返事をせずに出ていった。
結局ろくに眠れないまま、次の日の朝になり私たちは解散して帰宅する。

それからさらに2週間ほど経過して、夏休みも残り半分ほどになったある夜、Aから電話がかかってきた。

「牛の墓だけど」
「まだ調べてたのか、B先輩も言ってたけどほどほどにしろな」
「だいぶ分かってきた。もうひとつの話の真相を知った女にだけ呪いがかかる…っていう話があるらしくてね」
「女だけ?」
「だから、俺らは大丈夫だよ。それで学生運動の頃の話も詳しく知ってる人に明日会う。明後日の登校日に全部聞かせるから、待っててくれよ」
そういって電話は切れた。

続く