[牛の墓]
前頁

だが、その日Aはとうとう学校に現れなかった。
気になったので夜自宅に電話をしたのだが、何度かけても誰も出ない。
Aと連絡が取れないまま夏休みも終わる間際となり、私はAの自宅に向かった。
しかしAの自宅は雨戸がすべて閉ざされ、玄関の新聞受けには新聞がみっしりと詰まっている。勿論呼び鈴を鳴らしてもなんの反応もない。
高まる得体のしれない不安だけを抱えて、その夏休みが終わる。
2学期になってもAの姿は学校には無いままだった。
Aには年子で妹が1年にいたので、1年生の知り合いに尋ねても、妹も学校には来ていないとのことだった。

それからかなり経過してから私はある後輩女子部員の1人から噂を耳にした。
Aの妹が、夏休み中に突然自殺を図ろうとしたらしい。
彼女はとても明るく活発で友人の誰もそんな兆候は見られなかったのだが、自分の部屋でナイフで首を切ったらしいという。
学校にはAもAの妹も家の事情により転校、という連絡があり処理されていたことは後に明らかになった。だが教師は転校理由については何も明らかにはしなかった。
それから15年、未だにAのその後の行方は分かっていない。

結局、私はAから「牛の墓事件」の真相を聞くことはできなかった。

誰も中身を知らない最強の怪談話、という点でも「牛の首」とのかすかな共通項が見られるのだが…。

ただ、私が気になっているのはAは「牛の墓事件」についての調査をノート2冊くらいに分けて持っていた。
その調査記録をAの妹が目にした、もしくは読んだ、という可能性は考えられないだろうか。
そうしないと、突発的な彼女の自殺未遂の説明がつかないのだが…。


後日、B先輩とこのことを話したときにB先輩は私にこう言った。

「あいつ、あの夜こっくりさんする前から何かすごくいやな空気が身体を取り巻いていたんだよ。影が薄いっていうか、得体のしれない何かに魅入られてるような予感がしてな。俺気になってたんだ。多分それが怨念てやつじゃないかな」

Aくん、かつてオカルトがとても好きだった君が、もしこれを目にすることがあれば、一度連絡ください

ちなみにその学校に「牛の墓」という話が伝わってる、というのはわりと知られている話らしく、
先日取り引き先との飲み会でお得意様のC氏(50代前半)という方と酒の席で歓談中
「○○くんは××高校の出身なのか。昔あの学校には牛の墓って話が伝わってたらしいけど、きみくらいの年齢だと知らないだろうねえ」
と懐かしそうに語られたりしたので、妙なシンクロニシティを感じて投下しました。


Aくん、もし君がまだあの調査記録ノートを持っていたなら、一刻もはやく焼き捨ててくれることを願います


次の話

Part130menu
top