[罪悪感]
前頁

終始彼は初めて出会った頃のように明るく、
あの日突然彼が去った経緯などわたしの頭からはきれいに抜け落ち、
昔話がでた拍子に思い出してそのことについて訊ねてみました。
彼はただ「あそこから早く出たかったから」と答え、
わたしもなんとなくわかるような気がして、深くは追求しませんでした。

それからは楽しい旅になると思っていました。停車駅までの道程の間、
5ヶ所、それぞれ2、3日停泊する旅程でした。

南部地方は北部と違い、緑が多く、自然豊かな場所で地域によっては気候も冷え込むことがあります。
しかし、広大な地であることはかわらず、そのため流行し始めた携帯電話のインフラも不整備のところがほとんどで、
ひとたびエンストを起せば誰かが通るのを待たなければなりません。
犯罪に巻き込まれて、どこかに埋められてしまえばきっと迷宮入りです。
もしかすると、そこにだれかが埋められているかもしれない、とそんなことを考えながら景色を眺めていました。
彼は疲れても決して運転を変わろうとせず、そうかといって居眠りしてしまったわたしをとがめることはしませんでした。
本当に待遇はよかったのですが、日ましに会話が少なくなり、
沈黙を嫌ってわたしが話題を振っても彼は生返事ですぐ途切れてしまい、居心地が悪かった。
それは運転中気が散るからとか、ハンドルを握ると性格が出るといった、
そういう類いのものだと思いました。
ですが、彼はハンドルから離れてもこちらから話しかけなければ口を開くことがなくなり、
唯一アルコールが入るときだけわたしの知っている彼に戻りました。
だからわたしはアルコールをできる限り切らさないようにして、
その日もいつものように夕食のあと、テーブルの上にそっとビールを置きました。

もう三年前になるけど、この板の心霊オフで八王子城址その他に行った時の話
ありがちな女の声が聞こえたり、林の方から物凄い音が聞こえたりとかはあったけど、無事オフは終わり、参加者みんなとファミレスで話し、深夜三時頃に車で帰路についていました
「終わってみたら大した事無かったな」とか思いながら外を眺めながらマッタリしていると、深夜だというのに、携帯が鳴り、見るとなんと「非通知」!!
やべーなと思いつつも、恐る恐る出てみると、女が消え去りそうな声で何か話している
「・・・タノ・・・」
なに?
「コ・・・タノ・・・」
誰だよ!何言ってるかわからんよ!
「・・・子供が出来たの!!」



・・・オーマイガッ・・・


オフ中に出た、三倍の冷汗が額を落ちる・・・
予想外の霊障を受け、放心状態になりながら、やっぱ心霊スポットなんか行くもんじゃないと思いましたよ
その後水子を背負うのは恐いんで、パパになる道を選びました

それまでわたしは名前以外、彼の素性というものを全く知りませんでした。
知る必要もなかったし、知らなくても支障なくこれまでやってきましたから。
逆にそれを聞くことでぎくしゃくしてしまったり、わたしのことまで根掘り葉掘り詮索されるのが心配でした。
それが突然彼はこの旅を始めるきかっけとなった出来事を語り出しました。
そのときわたしは世間知らずでピンときませんでしたが、
恐らく最近問題になっている○栄や○工Fのような会社で働いていたこと、
取引先の社長が首を吊っているのを目撃してしまったことなど涙声で話し、ひどく悔いている感じでした。
わたしは嗚咽をもらしながら告白する彼を前にして、ただ聞くことしかできませんでした。
でもそれでよかったんだと思います。今なら誰にも言えない苦しさがどんなものか、
そしてどうすれば和らがせることができるのか、わかりますから。
語り終えると彼はテーブルに突っ伏し、しばらくして何事か呟いて静かに席を立ちました。
「死んだほうがいいんだ」、多分そう言ったのだと思います。

続く