[呪いのピアノ]
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そんな私の目の前で、美紀はゆっくりとした足取りで、ピアノの方へ向かって行きました。
そして、相変わらず絵里が流れるようにピアノを弾くその傍らに美紀は立ち、次の瞬間鍵盤の蓋をものすごい勢いで下ろしたのです。
絵里の悲鳴が響き、ピアノがバァン!と大きくなる音、そして蓋と鍵盤とに挟まれた指が折れるボキボキという音が、確かに
聞こえました。
「美紀!?」
「ちょっと! 何やってるの!!」
私と佐智子は慌ててピアノの方に駆け出しました。
美紀を取り押さえようとしましたが、美紀は信じがたい力で、私たち二人の力をものともしませんでした。
二回、三回と蓋がおろされ、その度に絵里の悲鳴とピアノの音と骨の砕ける音が響きました。
「絵里、鍵盤から手を離して!」
「離れない! 離れないのよ! どうなってるの!? もう、や、美紀! やめてえぇっ!」
四回目に蓋が下ろされた時、ぐちゃりと音がして、折れた骨が皮を突き破って出るのがわかりました。
白い鍵盤の上に、見る間に絵里の赤い血が広がっていきました。
絵里はその瞬間小さく悲鳴をあげ、がくりと気を失ったようでした。膝をつき、力なくうなだれているのに、
何故か手がピアノの鍵盤から離れることはありませんでした。
もう美紀の悲鳴は聞こえず、音楽室には絵里の手がつぶれる音と、その勢いで押されるピアノの重々しい音がしばらくの間響き、
ピアノの下に小さく血溜まりが出来る頃、美紀もまた糸が切れたように気を失い、倒れました。

私たちは先生方にきつく怒られました。
ただ、美紀は本当に自分に何があったのかわかっていなくて、絵里は一時入院したけれど美紀を責めることは無かったので、
結局「事故」と言うことになり、誰も処分されないですみました。
「良くわからないんだけど……
ただ、あのピアノは私のものだって、そんな気がして、それでそこから先は何も覚えてなくて……」
そう美紀は言いました。

絵里は完治しても手に痺れが出たりという障害が残りました。
こんなことがあったので、私の友人たちは皆幽霊を信じるようになりました。
そしてこんなことがあったのに、その後もみんな集まって怖い話をして、時に肝試しもしました。
そうせずには居られないほどに、退屈な日常だったのです。

ひとまずこれで、思い出話を終えたいと思います。


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