[五月蝿い]
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奴は無視されたと思い、ムッとして「どけよっ」と多少声を荒げたんだけど、やっぱり無視。
もう強引に通るしかないなと思って肩をこじ入れようとしたら、無抵抗で通れたんだと。
「エッ」と思って振り返ると、その爺さん焦点の合わない目で奴の顔を見てる、と言うより奴の頭のもっと後ろを見てる感じだったそうだ。まったくの無表情で。
奴は「ヤバイ!」と思って急いで自分のベッドに駆け込むと布団にもぐり込んでブルブル震えてたんだと。
そして朝が来て看護師さんが検温に来た時、奴は聞いた。
「ここって・・・お爺さん、いるよね?」と。そしたらその看護師バツの悪そうな顔して、
「あ〜見ちゃった?貴方、見えちゃう人なんだ・・・」と言ったと。

奴はそれからもその病室に入院し続け、俺と仲良くなったんだけど、奴が言うには、
「段々中に入ってるんだよ。昨日夜中に小便したくなって起きたら俺のベッドの脇に立ってるんだよ。今日はどうなってるか考えると病室戻りたくないんだよ。」
俺は笑うしかなかったな。
取り合えず盛り塩して寝ろとしか言えなかった。
でも、その事が結局奴を救った事になったのかもしれない。次ぎの日に話聞いたら結構ヤバかった。

俺が話を聞いた夜、奴と奴の病室前まで行った。
「いる?」俺が聞くと、「いや、もう廊下にはいないよ。いるとしたら窓際だな」と言う。入口から覗き込むと6人部屋で、一番奥の窓際の右手が奴のベッド。「どう?」もう一度聞いたが奴は「今日は出ない日かも」と言う。
俺は「何だよ、ツクリかよ。」と笑いながら言うと、奴は固い表情のまま、「塩を小皿にいれとけば良いの?」と聞いてきた。

「お前、塩なんて持ってるの?」「この間彼女に持ってきてもらった」
「じゃあ皿に入れておけば良いんじゃねエ」とか会話して、俺は自分の病室に帰った。
俺は何事もなく寝た。

続く