[五月蝿い]
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次ぎの日の朝、喫煙所で煙草吸ってると、奴が蒼い顔してやって来た。
「ヤバかったよ・・・」俺が挨拶する前に奴は話だした。
奴の話によると、枕もとに塩入れた小皿置いて寝たんだと。中々寝つけなかったけど、気が付いたら夢を見てたと。その夢を要約すると、
気が付くと古い藁葺き屋根の大きい民家の玄関前にいた。

玄関を入ると大きな土間だった。上がり框の向こうは畳み敷きの部屋があり、その向こうに障子が閉まっていた。
その障子を開けて進むと、4方が障子で区切られた部屋だった。また奥へ進むと同じ様に4方が障子の部屋。その奥へ入ったら突き当たりに大きな仏壇のある部屋だった。右手が障子。左手も障子。
左手はとても嫌な感じがしたので、自分は右手に行きたかったと。どうしても右手に行きたいんだけど、体が引っ張られる様に左へ行ってしまう。

「嫌だ、右に行くんだ、行くんだ」と叫んでも、強い力で左へ行かされる。
とうとう左手の障子を開けてしまうと、とても明るい場所だった。

何故か、あんなに嫌がっていたのが嘘の様にホッとして部屋を出る時、
耳もとで
「チッ!しくじったかっ!」
と野太い声が吐き捨てる様に呟くのが聞こえ、ハッとして目が覚めたら朝だったと。
起き上がって塩を入れた小皿を見ると、塩がぐちゃぐちゃのゲル状みたいに溶けていたと。
「あのまま右に行ってたら、俺どうなってたんだろう・・・」
奴の質問に答えられる言葉は俺にはなかったな・・・


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