[五月蝿い]

俺の親父が脳腫瘍で死ぬ前の話なんだけど、
ある日見舞いに行くと、
「五月蝿くてかなわないんだ・・・」と言う。親父の病室は2人部屋で、もう一人の患者さんもお年寄りで息も絶え絶えの感じ。
その呼吸音が夜中でも気になるのかと思って、黙ってそちらを指差し目配せすると、「そうじゃない」と。
「窓の外から大勢でこっち覗いてブツブツ言ってるんだ。怖いし五月蝿いし寝られないよ」と言う。
病室は8階にあり、ベランダとか無い。俺はゾッとしながらも病気からくる幻視だろうと思って何も言わないでいると、
「前に同室だったおっさんも居て、笑いながら何か言ってるんだ」と言う。俺が何も言えないでいるとそのまま眠りだしたので、しばらくして俺は帰った。
それから1ヶ月もしないで親父は眠る様に息を引き取った。
あの病院で、親父も誰かの病室を覗いているのだろうか・・・

俺が足を怪我して入院してた時、俺より早くから入院してた奴と仲良くなった。
ある日、消灯後に喫煙所でダベってると、
「あ〜部屋帰りたくね〜」と言う。俺と奴は病室が違う。誰か気の合わない奴が病室にいるのかと思い、そう聞くと「いや、そんな事もないよ」と言う。
「ただジイさんがさ〜」と顔をしかめるので、「確かに年寄りって気難しい人いるよな」と話を合わせると、「いや、生きてるジジイならどうでも良いんだ」と言う。
俺は話しが見えないので「ハア?」と聞くと、奴は話出した。

入院してしばらく経った頃、消灯後喫煙所から部屋に戻ろうとEVを出て病室前の廊下に出ると、暗い廊下にお爺さんが一人病室入口前でボーっとつっ立っていたと。
「ボケちゃってるのか、邪魔だな」と思い、「すいません、通りたいんですけど」と声をかけても何も反応がない。

続く