[添い着]
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「???」
聞き慣れない言葉の連続に混乱した僕を見て祖父は弱々しく
笑って言った。
「簡単に言うとな、何か汚いもので大地を汚してしまった時に、
地霊の怒りを買わないように清める儀式のことだ。汚れた衣を
新しいものに替えて地霊を空に送り出すんだ。そうして再び大地に
戻っていただくというものだ。ドラマの殺人現場にされたことで
大地が汚れたと考えた信者どもが『添い着』をしていたんだろう。
お前の友達はそれを見たんだな」
そこまで言うと祖父は苦しそうに息を吐いた。正直僕は祖父が
話したことに理解が追い付かなかったが、今を逃してはもう
聞けないと思い必死に祖父を見つめて訊いた。
「でも何であいつら…殺されちゃったの…?」
「『添い着』自体は特にどうというともないものなんだが、
それをやるには一つだけタブーがあるんだ。儀式の最中部外者に
見られてはいけないんだ。もし見られたら、地霊の怒りを収める
ことが出来なくなるんだ…」
祖父は言葉を絞り出すように続けた。
「そうなったらもう普通の『添い着』では駄目だ。本物を
使わなきゃならなくなる…」
「本物?」
「ああ、『添い着』は中央に衣となる拠り代を置き、それを五人の
男が囲んで呪文を唱えながら燃やすんだ。その時は目を反らさずに
火が消えるまで衣を見つめていなくちゃならん。だから遠くから
見たぐらいじゃ気付かれないはずなんだが、きっとお前の友達は
物怖じせずに近付いて行ったんだろうな…」
僕にはその光景が目に見えるようだった。負けん気が強く
茶化すのが大好きな福田や辻田辺りが先頭を切って階段を
降りていったんだろう。或いは橋の側から飛び下りたのかもしれない。
「見られてしまった男達は、本物を使った『添い着』をせざるを
得なくなった。驚いただろうな。昼間とはいえあんなとこに行く者は
まずおらんだろうからな…」
「じ、じゃあ山口が衣に…」
「ああ、一番最初に捕まったんだろう…流石にそこでは燃やさずに
息の根を停めて祝詞を唱えるだけにしたんだろうな…」
その後で山口は…燃やされたんだろうか…。
続く