[添い着]
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「他の三人も見られたからには逃がすわけには行かなかった…。
お前は『添い着』自体を見たわけじゃないし、神田の家の子だと
いうことで逃がしたと言っておったよ。じいちゃんの父さんは
熱心な信者だったからな」
「あの人達に会ったの!?」
「ああ、昔熱心な信者だった家を訪ねてみたんだ。案の定、そこの
親類の者だったよ。ひっそりと続いていたんだな。じいちゃんは
父さんが死んだ後集まりに行こうとしなかったから…」
「でもあいつらは一人逃がしたって…」
僕は大場のことを訊いた。彼は結局そのまま遠くの病院に入院した
とかで二度と学校に戻ってこなかった。
「ああ、その大場くんというのはな、連中の中に知り合いが
いたらしい。家の者が遠くに逃がしてしまったから手が
出せなかったそうだ。一人だけ逃げ切れたのがおかしいと思ったが、
知り合いなら手回しが早かったのも頷ける」

そこまで話すと祖父は苦しそうに咳き込み始めた。僕は両親を
呼び入れようとドアのところへ行きかけた。
「待て、まだだ。まだ言うとくことがある。お前のことなんだ」
僕はぎょっとして祖父を振り返った。
「あの時の男達の中の一人がな、お前も始末せんと『添い着』した
ことにならんと言い続けていたらしい。」
それを聞いた僕の首筋に突然忘れていた感触が蘇った。
「それを他の者達が説得して思い止まらせていたらしい。
だがなかなか言うことを聞かんでな。じいちゃんがやっと
説得したんだ」
祖父はじっと厳しい表情で僕を見た。
「お前な、ここを出なきゃ行かん。将来は他の土地で暮らしなさい。
お前は長男だから、ゆくゆくは旅館を継いでほしいと思っていたが
それも出来んようになった。お前のお父さんとお母さんは
まだ若いから、子どもを作ることができる。じいちゃんがきちんと
話しておいた。お前も納得してくれるな」
鬼気迫る祖父の勢いに僕は大きく何度もうなずいた。
それを見て祖父は満足そうに微笑んだ。そして、ほどなく祖父は
息を引き取ったのでした。終り


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