[添い着]
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「よし、あんたは助けてやる。だが、いいな。ここでの事は誰にも
言うな。言えばあんたも連れていかなきゃならん。」
僕はもう声が出せず必死に首を降り続けた。頭が痛くなるほど降った。
気が付くともう誰もいず僕は一人遊歩道で下半身を濡らして
座り込んでいた。それから五分ぐらいは動けず、漸く駐車場まで
這い出てきてチャリに乗り、何度か転びながら家に帰った。
親には川遊びで濡れたと言い、何も話さなかった。
夜布団に入った後もあの男の顔と声が脳裏に焼き付いて離れなかった。
月曜日、山口も辻田も福田も大場も学校に来なかった。
大場は風邪ということだったが、他の三人は昨日から行方が
わからないから、誰か何か知らないかと担任が話した。
公園に行くことは僕達しか知らなかった。僕は黙っていた。
やがて父兄にも連絡され、両親は僕を問いただしたが、
僕は置いていかれて一人で時間を潰していたと一転張りで
押し通した。それほどあの男は怖かった。早く時が過ぎてほしいと
願った。また昔に戻りたかった。友達なんかいらない、
寂しくても穏やかな日々が懐かしかった。

一週間過ぎ、二週間過ぎた。しかし記憶は一向に風化する
気配を見せず、僕はいつまでも首を掴まれているように気が重かった。
三週間が過ぎた頃、僕はとうとう耐えきれずに祖父に
あの日のことを話した。祖父はもう80近かったし、話しても問題
ないだろうという思いがあったのだった。僕が話し終ると、
祖父はいつになく厳しい顔になった。意外な表情に僕は少し驚いた。
祖父はそのまましばらく僕の顔をにらんでいたが、やがて口を開いた。
「その男達は全部で五人だったのか?他にはいなかったんだな?」
意外な問いに僕は戸惑いながらもそうだと答えた。
祖父は厳しい顔をしたまま呟いた。
「五人では足らん。もう一人おるはず…」
僕は何のことかわからなかった。祖父は深刻な表情を崩さぬまま
僕に言った。
「学校を休んだうち一人は風邪ということだったな」
僕はそうだと答え、ついでに大場は公園にいなかったと言った。
すると祖父は首をかしげながら
「そんなはずはない。そんなはずはない…お前その後は
川の方見ずに帰ったんだな?」
僕が頷くと祖父はまた黙り込んでしまい、僕は不安のあまり
泣きそうになった。

続く