[初恋]
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その後、自分ひとりの時にはなんども階段を出そうと試行錯誤を繰り返してい
たが、それが出来ず結局は、家が完成し、引越しする日が迫ってきてしまう。
引越しの日、自家用車で借家と家を往復を繰り返していて、荷物を運んでいる
時に自分ひとりが家に残ることになり、特に暇を持て余している時、ふと父の
釣竿が目に入る。伸縮自在で先っちょには糸を通せる枠が付いてる…これなら
ば。と、その釣竿を使い階段の紐を縛る部分に引っ掛けようとする。
引っ越しても会いたい、別の場所でもあいたい、どこに住んでるか知りたい、
もう一度彼女に会いたい、せめてお別れだけでも言いたい。

階段を出したこと
で怒られるのもかまわない。そんな怒られる時の事なんか頭になかったかもし
れない。
その一心で、重たい釣竿を操り、階段を引き出すことが出来た時は文字通り飛
んで跳ねて喜んだ。
ばたばたと階段を上がり天窓を開ける。かび臭いのも、誇り臭いのも気になら
ない。彼女はいないのかと天窓から顔をだして見回す。
前の位置には彼女はいなかった。
そのまま、首を回していき、ちょうど階段を上っている背後にあたる部分に顔
を向けた時。

なにかがある?

目の前になにかがあるのが分かった。
近すぎて一瞬視点が会わなかったが、すぐにそれが女性の顔だと分かった。
距離にして数センチ。
顔はぱんぱんに腫れ、青く充血目から涙のように、鼻から口から、良く分から
ない半透明の液体が流れていた。幼いとはいえ、それが人間ではないと直感し
悲鳴を上げることも逃げることもできずただただ恐怖に固まる。
その女性が愛想笑いのようににやっと微笑むと、

私の子に近づかないでね…

とぼそっとつぶやく。

わかったぁ〜?

の、ぁのところで、糸を引いて大きく口が開いた時に前歯が粘液に包まれたま
ま抜け落ちるのが見えた。

続き