[カエセ・・]
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メンドクセつーに、話はまだまだ続いたよ。Kが語った。
「確かに、手が見えたよ。ベランダの手すりに誰かがぶら下がっているみたいだった。
だから、俺、すぐにベランダに出て確認したけど、誰も、、、何もいなかった。」
それで、俺が「そんだけか?アホか?」と言うと、Jが「それだけじゃない!
K、ちゃんと話して!」って泣きながら言うわけだ。「でな・・・。」Kが言った。
「近くの道のカドに、女がぼうっと立ってて、この部屋をじぃっと睨んでたんだよ。
口惜しそうに。そのときは、暗くて顔までは見えなかったけど。」Kは目を瞑った。

「いつも来てた電話、あれも女の声だったよ・・・。」Jがブルブル震えだしやがった。
「でも、それだけだったんだろ?そんなことでビビってんじゃねーよ!アホが!」と俺。
「いい加減、ちゃんと話きかないと、いくらTでもぶん殴るぞ!」Kがマジで怒った。
シラケたよ。Kは体鍛えてて、正直俺じゃ勝てねー。俺に怒ったのも、初めてだしよ。
「話はそれだけじゃないよ。」Jが言った。「4日前の夜明け頃、新聞受で物音がした。」
アパートには良くある、ドアについた新聞受だ。Jは新聞をとってない(バカだしな)。
「玄関の床に紙が落ちてた。それを拾おうとしたとき、いきなり前髪を掴まれたよ。
穴から延びた誰かの手に、、、。私、髪を引っ張られて、新聞受に、顔がくっつくくらい
引き寄せられて、、、。穴の向こうに見えた。はっきりと。」
隙間から、知らない女が覗き込んでたそうだ。

もう俺も、乱交気分は消えてたよ。つーか少し怖くなってた。Jがさらに続けたよ。
「その日は、Kがウチにいて、すぐに助けてくれた。私は行かなかったけど、
Kがその女を追いかけてくれた。でも、階段にも、敷地にも誰もいなかったって。
ただ、遠くの辻から、この部屋をじっと見つめる、焼け爛れた様な顔の女がいたって。」
Jは両手で自分の肩を何度もさすってた。鳥肌ビッシリでよ。
その時、Kは不思議な表情で下を見ててな、少し気になった。後で理由が分かったけどな。
「しかも、この紙が。」紙を埋めつくす赤い文字。「カエセ、カエセ、カエセ・・・」。
紙をみた俺は、なんか急に寒くなったよ。部屋の空気が凍っちまったみてーだった。

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