[祝日のごみの日]前ページ

そして、その日。私は彼に呼ばれてその話を聞かされました。
「怨恨だとしても手が込んでいるというか……」
「儀式的ですよねぇ、大安とか祝日を狙うっているのは」
「うーん。なんかそういう呪みたいなのがあるのかなぁ……」
「僕は聞いた事が無いんですが……でも、なんか邪悪ですよね……」
「うん……それでね、聞いてほしいんだけど……」
「なんですか?」
「そろそろ危ないと思う……」
彼の言う所によると、最初はあまり生物的な感じがしないものだったという。
「肉片がさ、例えば市販の豚肉みたいな感じだったし、何か血も絵具っぽかったのよ。で、俺は悪戯だと思ってたんだけど。次は、本物の血肉で、でも市販の感じだったな。
精肉の前の段階をなんて言うのかしら無いけどああいう感じだったんだよ。血もなんか水増ししたみたいな感じだったし。しばらくはそんな感じだったんだけど、今回は……犬だろ?
犬って生きたまま殺さなきゃ、なんないじゃん」
つまり、次は犬より上の何か……猿とか人とかと言いたいのだろうと言う事はすぐにわかりました。
「いや、それは無いですよ。ありえないですよ」
「そうかなぁ」
私は、すぐにその場を辞して帰宅しました。あんまり気持ちの良い話では無いしあながち信じられる話でも無いし。

それから、一週間。私は、再び彼に呼ばれて家を訪れました。
私に見張りをやれと言う事らしい。勿論、無下に断るわけにも行かないし、なによりも私自身が見てみたい気持ちもありました。
コートを重ねて庭でテトリスをやりながら時間を潰していると、大体四時か四時半位になった頃……なにやら話声みたいなものがする。
何を言っているのか判然としないのですが、相談をしているらしい。
私はそっと覗くと人影が四、五人見えました。

何だ?と思う間にそれが老人、近所の老人である事が知れました。
一人の老人が布をぐるぐるっと丸めると傍らの老女の口に突っ込みくわえさせます。老女は否やも無くすんなりくわえると、両手を後ろで縛ってもらい胴も腕の上から布で縛ると、すっかり身動きがとれなくなってしまいました。
老人達は何か談笑しながら包丁とノコギリとクサビ(?)と金槌を出して用意を整えています。
私は大凡、事の次第を把握して飛び出そうとしましたが、どうも体がギクシャクして動きません。

心臓も脈打ってこめかみやのど仏がヒクヒク動くのが感じられます。
そうこうしているうちに、一人の老人が老女の口に詰まっている布をぐいぐいと押し込めて喉の奥に突っ込んでいく様が見えたので、あっと叫んだ勢いで飛び出してしまいました。
老人達はぎょっとした顔をしたものの、私が狼狽して制止しようとするのを強いて抵抗しようともせずすんなりと受け入れ、すっかり老女の縛を解き、刃物を取り上げる事ができました。
「何をしていたんです……いや、なんなので」と、言う間に
「いや、それは」
「言ってはならんのですけど」
「悪い事はしとらんでしょ」と、言う。
「何を言っているんです。今、この人を殺そうとしていたじゃないですか。あなた達は、他にもこの家の玄関に死体の入ったビニールを置いたりしたでしょう?違いますか?」
「そりゃ、別に」
「別に?別にって何です?」
「……。」
「弁解はないんですか?じゃあ、警察にいきましょうか」
「あ、いや、それは」
「なんですか?自分達のした事を良くわかっていないようですね?犯罪ですよ」
「うん、でも、なぁ?」
と、老人達はお互いうなずきあい、仕方なさそうな顔をしています。
「まぁ、風水が……」
「え?」
「風水的に……」
「フうすい?いや、何を言っているんですか、そんなのないでしょ」
「いやぁ、無い事はないでしょうが……」
もう後はその問答の繰り返し、良くわからない会話がループしてとても堪えられませんでした。
結局、無理矢理警察に連れていったものの証拠も無いし、知らぬ存ぜぬを通されたらそれっきり。警察はやんわりと双方を説得して終りでした。
結局、それからは彼の家に死体が置かれる事はなかったそうです。

続く