[下がれ!逃げろ!]
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対岸の二人組みがこっちに向かって騒ぎ出した。
「うわーっ!!!!」「おいっ、そこそこそこ!!!」
友人に向かって指を指しながら大声で騒いでいる。指はこちらの足元を指しているらしい。

友人はとんでもないデカバスでもいて、対岸の連中がそれを教えてくれてるのかと思い
それらしい場所を探そうとした。自分の足元は葦や水草で意外と水面が見えないものだ。
すると対岸から
「うわっ、行くな行くな!!」「下がれ!逃げろ!」

(逃げろ・・・?)

(・・・あーーー、そうか!マムシでもいるのか)と思った友人は、マムシではかなわんと思い
岸辺を離れ、土手の上に上がってきた。ところが。
対岸の二人組みまでもが大慌てで土手に駆け上がり、こちらに向かって走り出した。表情が
尋常でない。

いったい何なんだ?合流した友人と私は、こけつまろびつといった態の彼らが我々の元に合流
してくるのを待った。

「あんた!さっきの見た?!」
「化けもんだよ化けもん!!」
二人組みは顔が真っ青だった。しきりに元いた下流方向を気にしている。

二人の話によると、友人が釣っていた場所近く、葦の茂みの手前(川側)2m位の所にボコッと
波紋が立ったのだそうだ。(ん?)と思って対岸を見ると、バレーボール程の何か黒いものが水中
からヌッと現れ、2人の見てる前でそれはゆっくりと回転し始めたという。
最初は、捨てられて苔などで真っ黒になったボールに、水草が絡んだ物のように見えていたが
回転するにしたがって、それが人の顔を持っていることがあらわになった。
長くボサボサの髪の毛らしきものがまとわり付くそれは、真っ黒でどろどろぬらぬらした人の
頭で、うつろに虚空をさまよう目だけが白かったという。

顔がちょうど岸のほうを向いたとき、すぅーっと1mほど岸に向かって移動しざま水中に消えた
のだそうだ。その方向に釣り人(友人)がいたため大声で知らせたものらしい。

大慌てでそれだけ言うと、東京からきたという彼らは釣りを引き揚げて帰っていった。
無論我々もあまりに気持ち悪いのですぐに引き揚げた。

我々自身は何一つ怖い思いをしていない、ちょっと気持ちの悪い話を聞かされただけだが
それでもそれ以来、2度とその場所には立ち寄らなくなった。
バスではかなり名の知られた湖沼に注ぐ川での話である。

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