[怖いのは幽霊?]
しかし、そんな姉に手を繋いでもらっていても、
学校の門に着くなり足がすくむようだったように思います。
いつもなら無駄に広いグラウンドで遊ぶ子供の数人も居るのに、
その時には何故か誰も居らず、蝉の声が異様に大きく聞こえました。
けれど、日記帳を持ち帰らないわけにもいかず、
姉が手を引いてくれる後を、重い足取りでついて歩きました。
私の教室は二階の階段すぐで、あまり距離もなくすぐにつきました。
そうして自分の机を探すのですが、日記帳が無いのです。
探す間もずっと手を繋いだ侭で居てもらった私は半泣きで、
姉も一緒に探してくれたのですがどうしても見つからない。
もしかすると先生が見つけて持っているのかもしれないと考え、
一度職員室に行ってみようと姉に言われ、教室の扉に向いた時でした。
私は思わず、あ!と声をあげました。
日記帳が、席からは少し遠い開いた侭の扉のところにありました。
私は思わず安堵して駆け寄ろうとしたのですが、
姉が繋いだ手を引き留めて自分が前に出て、扉の付近を窺っているので、
そこで、私は初めておかしいという事に気付きました。
日記帳は、大体床上30センチ程のところに、浮いて、いたのです。
扉に挟まっているわけでもないそれに、私は急に怖くなり、
お姉ちゃん、と姉を呼ぼうとしましたが声になりません。
姉の方を向こうとして、どうしても動けない事に気付きました。
当時金縛りという現象を知らなかったのですが、
それに近いものだったかもしれません。
目だけは動くのですが、姉とほぼ並んでいたので様子は見えませんでした。
不意に、日記帳が更に浮きました。
目で追うと、それがゆっくりと、扉の開いた空間に迫り出してくる。
初め半分程扉に隠れていたのが、全て姿を現した時に初めて、
白い手が日記帳を掴んでいるのが見えました。
続いて黒い髪が、赤いスカートが、白い靴が、出てくる。
今でも其の姿をはっきりと思い出せます、
線が細く、真っ青な顔をした髪の長い女性が、日記帳を持っていました。