あっと言う間に延びてきた緑の気体が、私達を包んだようでした。くんく
ん鼻を鳴らして嗅いだ私は、ガスか煙霧に似たこと気体は酸素と窒素か
らなる空気でなくて、説明のしようもない別の成分の気体ではなかろうか
と直感しました。緑のガスを大きく吸い込みますと、すうーっと肺の中ま
でしみる快いものを覚えました。
と、同時に、急に身体が軽くなりました。普通に歩いたつもりだったの
ですが、足を踏み出した瞬間に、ふあふあした自分の身体は二米も高く
とび上がった感じで、そのまま十米ぐらい前方に音もなく降りる感じでし
た。映画のスローモーションフィルムと同じような動作だと思い、突然に
地球の引力がなくなってしまったのでは、いやあるにしても何分の一か
に減ってしまっているのです。
私だけではありません。突然の変化で、前を進む息子は恐怖におびえ
た顔を、間の抜けたスローモーション動作を示しながら振り返って見せ
ているのです。第二歩を空中に躍らせた時、高い空を見上げました。空
は青色に決まっていますし、数秒前には間違いなく青だったはずなのに、
紫に変わっていました。ただの紫ではありません。抜けるように濃くすき
通って眺められる紫の色でした。そんな馬鹿な話ってあるものですか、
そう感じました。次には、ふんわり降りる際に、地上に目をやったのです
が、たった今まで苦闘したばら科植物と蔦が消えていて、砂地になって
いるのです。しかも、この地方で見る土砂でなくて、何時か九州の海岸
に遊んだ時に手につかんだ砂に似ています。まばゆく輝く水晶とも思わ
れる石英がまじっているなあと思いました。山の中に海浜の波打ち際に
見られる砂があるとは、私は混乱してしまいました。
続く