[岩登り]
前のページ
最初、僕の相方が登っていたのですが、やはり反り返りの所で指がすべって
しまうようで、何度も落ちては登り直しというのが続きました。
僕は勿論雨用のセパレートを着ていましたが、彼を待ちながら雨のじっとりと
した感じが気になってしょうがなくなりまして、彼が一度下に降りてくると、
ザックからシートを出して周りの木に結び、雨よけにしました。
この雨よけはとてもよかったのですが、その下にいると岩場の頂上のあたりが
ちょうど見えなくなり、安全上からもあんまり気味の良いものではありませんでした。
しかし、よく相手が見えなくなることはあることで、声をかけたりロープの流れで
察したりすれば不自由はありませんので、別にシートの位置を変えることもせず、
今度は僕が登ることになりました。
それにしても、その日はあんな低い山にも霧をかけていまして、雨なのか
霧の粒なのかわからないくらいでした。
だいたい落ちる時には、「ああもうだめだ」と思ってしまうものですので、
僕は絶対にあきらめないでずっと上を見続けようと決めていました。
問題の場所に近づいた時、まず右手を手がかりにかけ、その隣りに左手をおき、
ぐいっと体を持ち上げました。この状態になると、足も反り返りの部分に入り、
足をきちんと岩に接触させていないと非常に不安定な状態になります。
そして僕はわずかに覗く頂上部分をにらみながら体の安定を図り、次の一手に
進もうかと考えていました。
そうした僕の目線の先、頂上の所から突然ぬっと赤いセパレートを着た人が現れました。
僕は上の山道から降りてきた人が上の支点をみつけて興味本位で覗いてるな、と思い、
「この非常時に悠長なおっさんだ!」という感じでにらみ付けながら、なんとか
そこをクリアーすることに成功したのでした。
続く