[花嫁衣裳]
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それに大事にしてくれていた彼女が、指輪を壊す理由も思い付きません。
Sの生き霊だ…。自然とそう思いました。その時、電話の呼び出し音が鳴りました。
僕の携帯電話の音です。二人とも突然の音にビクッとしました。
「ちょっと待ってて。」
Cに告げて電話を取りに行きました。液晶の表示は…非通知です。
予感がし、一呼吸を置いてから携帯電話のボタンを押しました。
「もしもし…。」
やはりSの声です。声は笑顔で話しているような、明るい調子。
「あ、も…」もしもし、と言いかけたら、そのままの明るい声で、
「嘘つき。」
と。
「え…?」僕が聞き返すと、
「嘘つき。」
もう一度、電話の声が言いました。
携帯電話を耳に当てたまま、部屋のカーテンを開け、窓を開けました。
2FにあるCの部屋から見下ろすと、コーポの前の道路に女性が立っていました。
部屋の真下くらいで、街灯に照らされたその姿はよく見えます。
Cの部屋を、僕を、見上げています。
まず気づいたのはショートカットの髪でした。そして襟のない服。首の痣。昨夜と同じ
笑顔…。髪を切ったSでした。
街灯の下でSの唇が動きました。
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