[元彼女の生霊]
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「彼女はいないって言ったじゃない…。」
携帯電話からSの声が聞こえます。僕は身動きが取れないまま、声にならないまま、考える
だけしかできませんでした。
(昨夜は本当に一人だったんだ。)
「私のことはあんなに傷つけたくせに…。」
(すまなかった。知らなかったんだ。許してくれ!許してくれ!許してくれ!許してくれ!許して
くれ!許して…。)
「どうしたの?」
Cの声がしたと同時に、街灯の下のS姿が消えました。なんの前触れもなく、突然。
僕の様子がおかしいので、気になったのでしょう。Cが僕のそばに立っていました。
窓とカーテンを閉めると、僕は座り込みました。脚に力が入りません。
Cも僕の様子を見て不安そうです。
僕はCにSのコトを全て話しました。Cは最後まで黙って話しを聞いてくれました。
枕の下に塩を置き、寝る前に心の中でSに謝りました。
明朝、とりあえず仕事へ行くことにしました。
いつもと同じ生活をしないと不安だったのだと思います。
Cに気を付けるように注意し、車で職場に向かいました。
その日もCの部屋へ泊まることにしました。
夜は何事もなく、朝を迎えました。
昨日と同じように車で職場に向かっていると、ワイパーにゴミが付いているのが見えます。
意識せず、ゴミを落とそうとワイパーを動かしたところで、それが何か気づきました。
人間の髪の毛が何十本も、ワイパーにからみついているです。
僕は叫び声を上げました。車を運転しながら、叫びながら、泣いていました。
その後の2週間ほどは色々ありました。
Cの部屋に無言電話がかかってきたり、僕の携帯電話にも非通知で着信が何度もありました。
でもその程度で、あの夜ほどの恐ろしいことは起こらなかったのです。
それも2週間ほどしたころにはパタッと止まり、僕は安心と不安とを感じていました。
なぜ突然、Sは僕を解放したのでしょう?
この3年間、ずっと不思議に思っていましたが、先日、たまたま寄った実家近くのスーパーで
疑問は解けました。
その親子連れを見かけた時、反射的に隠れました。
Sが2〜3才くらいの男の子と手をつないでいます。その横にはSの夫と思われる男性がいました。
(そうか、好きな人が出来てたんだな…。)
僕はSの幸せそうな様子に心から喜びを感じました。
そしてCから取ってくるように頼まれていたサラダ油を棚から取ると、Cと1才になる愛娘のところ
へ走っていきました。
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