[契約]
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「助かる方法があるのですか?」
「ある。だが、それには条件がある」
「条件?」
「私や、私の友人の力では君を助ける事は出来ない。
普通の加持や祈祷では、君に降りかかる呪詛は払えないだろう。
他人の力ではなく、君自身が修行して霊力や生命力を大幅に引き上げる必要がある。
その上で、君達の一族に向けられた呪詛を『引き受ける』術を持つ、ある呪術師の親子の力を借りれば君は助かるだろう。
しかし、君が呪詛に耐えるに必要な霊力を身に付けるための、修行を行う時間はない・・・」
「ならば、どうやって?」
「まもなく、韓国から問題の呪術師の親子がやって来る。
私は『契約』により、呪術師の息子が一族の業の後継者となる子を作り、次の代に引き継ぐまで、息子を監視し助ける義務を負っている。
しかし、残念な事に、私は適性を欠いていたようだ。
修行の過程で体を蝕まれ、呪術師として呪詛に触れる過程で命脈を使い果たしてしまったようだ。義務を果たす事は最早出来ない。
私は、自分が蝕まれている事を知ったときから、自分の代わりとなり得る『適格者』を探し続けてきた。
君には適性がある。
強い霊力の『血』を持つ女は、並の霊力の胤では決して孕まない。
まして、**部落の、美鈴さんの霊力の『血』は何代にも渡って濃縮された極めて強い血だ。
**部落以外の者の胤で孕むことは、極めて稀だろう。しかし、美鈴さんは君の子を宿した。
これは、君に極めて強い霊力や生命力が備わっている証拠だ。
君は私の代わりに、『監視者』たる『金』の姓を名乗って、然る時が来るまで、呪術師の息子を助けて欲しい。
私は、君の一族に降りかかる呪詛を身代わりとなって引き受けよう」
昌浩は金 英和の申し出を受け入れた。
昌浩は金 英和に連れられて、霊能者・天見琉奇の元に赴いた。
昌浩が着いた時には、宋 昌成は既に発狂し、衰弱し切った状態にあった。
やがて、韓国から『祟られ屋』の呪術師の親子が来日した。
昌浩は金 英和に成り代わって親子と契約の儀式を行い、父親の呪術師に息子と共に師事した。
昌浩は韓国から来た『祟られ屋』だけではなく、霊能者の『天見琉奇』、呪術師『榊』など、数多くの呪術師・祈祷師・霊能者を師に仰いで修行を重ねた。
宋 昌成や駒井の手によって保護された『美冬』は、天見琉奇に師事し、その卓越した霊力から『天見』の名と彼の教団を継ぎ、後に霊能者・天見琉華となった。
やがて、『祟られ屋』の息子は父親から一族の呪法を受け継ぎ、昌浩と共に呪術師として本格的に活動を開始した。
そんな時に舞い込んだのが、呪術師『半田千津子』の抹殺だった。
『千津子』は『美冬』とは出身部落を異にしていたが、同様の『封じられた』血脈に属する女であることが天見琉奇の霊視によって明らかになった。
『千津子』は何者かによって、その強力無比な霊力を利用され『依り代』として、呪殺の道具にされているだけだったのだ。
彼女の一族は、美冬の一族や**部落とはまた違った、巧妙な方法で呪詛の主に支配されていた。
ある種の呪詛により、思考能力を抑えられて、力の抑制や善悪の判断が出来ない『人形』にされていたのだ。
半田親子の知能障害、一旦発動すると歯止めが利かない強力な『力』は、そこに原因があったと言うことだ。
類稀な才能を認められて危険な術を託され、組織において『呪殺』を受け持ってはいたが、榊は性格に問題のある男だった。
非情になれない、特に女子供に甘い男だったようだ。
彼には、正体の明らかでない何者かに呪詛の道具として利用されているだけの哀れな女を消す事は出来なかった。
だが、彼に背後の術者を探し出す力はなく、組織にもその力を持つ者は居らず・・・天見琉奇を以ってしても特定は不可能だった。
榊は死を覚悟して、父の友人であり、弟子の昌浩や韓国から来た『祟られ屋』の息子を統括する幹部でもあった『呪術研究家』の男に後の処理を依頼して組織を出奔した。
・・・『半田 千津子』の助命を嘆願して。
榊にとって、韓国発祥の教団であり、日本の神々や呪術・霊力とは敵対する『T教団』に千津子を委ねたのは、彼女を『支配者』である術者から切り離す上での窮余の策であったのだ。
やがて、組織の命により榊は抹殺されたが、呪術研究家の「下手に千津子に手を出せば、『支配者』を失った彼女の『能力』の暴走を招き、更なる死者が出る。
下手に抹殺を図って犠牲を出すよりは、彼女を保護しているT教団と協定を結び、彼女の力を封印した方が得策だ」と言う主張が採用され、組織とT教団との間で協定が結ばれた。