[お札の家]
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落ち着きを取り戻した車内は一気に明るくなり、Sがあの時の状況を再現するなどして街に戻る頃には元のテンションでハシャイでいた。 
ちょうどコンビニに差し掛かり、先輩が 
「飲み物買うか」 
と言ったその時だった 
「ドン」 
車の屋根から大きな音がして車内が揺れた。 
先輩はとっさに急ブレーキを踏んで 
しまい、後続の車からクラクションが鳴り響いた。 
先輩「えっ何!?今の何なん??」 
R(先輩の彼女)「とりあえずコンビニ入ろ!後ろの車に迷惑だし!」 
自分にも何がなんだかさっぱりだった。鳥か何かかな?でも有り得るかそんなコト…考えている内に車はコンビニに入った。 
急いで車から降り、屋根を確認するが、ヘコんでいる様子はない。携帯のライトで照らしても傷がついたような跡は見当たらなかった。 
先輩「おかしいなぁ、絶対何か落ちてきたよなぁ!なぁ!」 
何が起きたのか全く検討がつかず、車の周りや近くの道路をウロウロしていたら、Sが降りてきていないコトに気づいた。 
車に戻り 
Sに「どうした?」と聞くが返事が無い、うつ向いて少し震えている気がした。変な胸騒ぎがして強めに肩を揺すって「おいどうしたんなお前!!」と叫んだ。 
Sはしゃがれた声で 
「ついてきとる」 
と呟いた。 
Sの一言に自分は正気を失った。 
「ついてきとるって何なん!?お前あれ嘘だったんと違うんか!!」 
Sは青ざめて震えている。先輩の彼女も泣き出してしまった。 
とりあえず落ち着こうというコトでコンビニで暖かい飲み物を買って与え、少しずつ話してもらった。 
S「ハナッからヤバかったんじゃ、あの場所は。バリケードあったじゃろ?あれわざわざ林の奥まで逸れたのは有刺鉄線があったからじゃなくてバリケードのすぐ向こうに人が立っとったからなんよ… 
お前には見えてなかったみたいだから、何も言えんかったけど、あそこで行くのヤメようて言ったら糞カッコ悪いやん。 
バリケード越えても霊はウジャウジャおったよ。林の中や林道に立ってた。でも俺らには何の興味も無さそうに見えたから何とか平気なフリができたんよ。 
…ダミーの家に着いた時、そこにはホンマに霊はおらんかった。やっと安心して煙草吸おう思ったんじゃ。で火着けよる間にお前がどっか行くからお前の方見たらおったんじゃ。 
髪の長い女が。 
チェーンくぐろうとしとるお前を見下ろしとった。 
とっさにお前呼んで逃げようとしたけど遅かった。お前が振り向いた時にはその女がお前の背中に抱きついとった。 
Sのアパートに戻った自分達は、飲む予定で買っておいた酒も飲まず、直ぐ様寝てしまった。 
ビクビクして寝るドコじゃないと感じていたが、不思議とすぐに意識が飛んだ気がする。 
次に意識が戻った時、洗面所の声から 
「ゲェ〜〜!!ゲェ〜〜!!」 
と何かを吐く声が聞こえた。 
急いで洗面所に向かうとSが便器にうずくまって吐いていた。 
「大丈夫かっ!?S!!しっかりしろ!!Sっ!!」叫びながら夢中で背中をなんどもさすった。 
でも 
便器の中を覗いて氷ついた。 
Sは血を吐いていた。 
飛びそうになる意識を必死で保ち、狂ったようにSの背中を叩きまくった。 
「コノ野郎!!ふざけんな!!コノ野郎!!」 
泣きながらひたすらSの背中を叩き続けた。 
寝るために薄暗い豆電球にした部屋の電灯が風も無いのにユラユラ揺れていたのを鮮明に覚えている。 
どのぐらい時間がたったのかわからないが、呼んでおいた救急車が到着し、運ばれるSと共に救急車に乗り込み病院に向かった。 
すでにSに意識はなかったが、俺の服を掴んではなさなかった。 
Sが救急病院にて治療を受けた後、医者から説明を受けた。