[エレベーターの母娘]
前頁

それ以来、俺は彼女と付き合うようになった。
俺の画学生の友達は偉く無関心で「あっそ、おめでと」
ぐらいしか言わず、それからもよく家に来て飲んでたのを覚えている。

ところが、その交際も実はあまり続かなかった。
付き合い始めたのが、ちょうど今頃1月か2月だったから、半年程度。
理由はいきなり彼女が日本に帰国したからだ。

変える間際には相当痩せこけていたのを覚えている、その時は
「やっぱり俺がいても寂しかったのかなぁ」とあぁでもないこうでもないと
俺を捨てて帰国した理由を考えていた。

帰国前の二週間ほどは殆どあってもらえなかった。
おかげで別れもろくに言えず、今もちと引きずっている。

ただ余りに逃げるように帰ったので、俺は相当荒れた。
まぁその画学生の友達と「女なんかどうでもいい」だの
「あんな身勝手な奴だと思わなかった」だの愚痴りまくっていた。
友達は殆どうなずくだけであまり何も言わなかったのを覚えている。

それから半年して、ちょうど一昨年の今頃、
それから別の国のアート学校にさらに留学したその友人から
メールが来た。

「彼女が入院した。」

なんでも怪我とかじゃなくて精神的なものらしい。
たしかに付き合ってた頃も結構不思議な子で、金縛りや、独り言は
日常茶飯事で、年中うなされたりひどいと叫んだりしてたのは覚えていた。

ただそこまで酷いとは思っていなかったのでかなりショックを受けた。
その時は日本に帰って様子だけでも見に行くべきかと思ったが、
悲しいもので、学校の単位的にも金銭的にも日本に帰ることは
出来なかった。

それから半年して、夏休みに一時帰国することがあったので、
そのついでに彼女の実家の広島まで行ってみた。
(俺は東京なので、交通費がかなりきつかった。)

住所を頼りに実家を訪問した。どうも様子がおかしいなと
彼女の実家の前で思ったことを覚えている。と言うのも、
なんて説明したらいいか分からんが、なんか色がくすんでた気がした。

インターホンを鳴らすと、彼女の母親が出てきた。
俺を一目見ると、「あなた、○○さん!」と、ほぼ叫んでた。
いきなり叫ばれたのでびびったが、やっぱりその時も変だと思った。

家に入れてもらい居間に通され、彼女の容態を聞こうと思ったとき、
愕然とした。

仏壇に彼女の大きな写真が、そして線香が焚かれていた。
俺はマジで混乱して、どういうことか把握できなかったから
「どうしたんですか!」と叫んだ、叫んですぐさま思ったのは、

「自殺したんだろう。」

案の定、入院先から逃げ出し街まで出てとある雑居ビルから
飛び降りたらしい。

その時のことは、正直俺も記憶が今でもあやふやだ。ショックだったし
なにより、やり直すつもりでそれなりの覚悟をしてたからだ。

理由を彼女の母親に尋ねるも、病院に入院していたこともあり、
精神的なものだとしか聞かされなかった。

結局、日も限られていて、墓参りをした次の日には東京に戻り、
その一週間後にはまた自分の留学先に戻った。

続く