[鈴木]
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あれっ!あいつ鈴木じゃないか

躊躇する間もなく、俺は駆け出す田中の後を追った。
「ちょっと待て!あれ鈴木だよ」
コンビニの前で田中に追いすがり、やっと息をついた。
「だまされたんだよ。山田と鈴木がぐるになって、俺らを脅かしたんだって」

「鈴木?鈴木って誰?」
きょとんとした顔つき田中。
「はあ?」
二人の会話はまったくかみあわなかった。
「じゃあ、あそこで誰と話してたんだよ」
「暗くて分かんなかったけど、てっきりおまえだと思ってた。
顔は見えなかったけど、俺の後ろに、確かに誰かがいた」
「それが鈴木なんだって」
そう言いながら、こんないたずらや悪ふざけするような奴には
見えかったなと思った。
正面に座り、一番熱心に俺の話に耳を傾けていた。
ほとんど喋らなかったが、時折軽く相槌を打ったりして、好感すら
持てた。

鈴木なんて奴は訪ねてこなかった、と田中は言い張る。
とにかく山田に聞くしかないなということで、俺らは足早に山田宅へ向かった。

チャイムを鳴らすと、山田が不安げな表情で出てきた。
「おまえら、どこに行ってたんだよ」
俺と田中は唖然として顔を見合わせた。

「だから、飯食った後、ソファに座って三人で野球中継見てたよな」
ここまでは皆同じだった。
「俺は昨日遅かったから、野球見ながら寝ちゃったんだよ」
と山田は言う。
「おまえが眠そうにしてたから、俺が怪談話を始めたんだよ」
と俺。田中も同意する。
「話してる最中に、鈴木っていう中学の同級生が部屋に入ってきたろ」
俺だけが確認している。
「俺、鈴木って友達いないし、そいつが勝手に家に上がりこんだのか?」
言葉に詰まると、田中が後を引き継いだ。
「あの川べりの小屋に案内したのは覚えてるだろ。おまえが言い出したんだ」

自転車で行こうと言う俺を無視して、山田は一人先に歩き出した。
防災倉庫に着くまで、ずっと無言だった。
到着するなり、あらかじめ決められていたように、肝試しの設定を
滔々と喋りだした。
まさか、夢遊病者のできることじゃない。


山田は頭を抱え込んだ。
「だ か ら、もう完全に寝てたんだよ」
怯えているのかもしれなかった。
「じゃあ、あの小屋のことも知らないのか?」
絶句した田中に変わって、俺が訊ねる。
「知ってる。あそこは中学の時の通学路だった」
山田は真っ青な顔になって、震えているように見えた。
「ずっと前、いじめにあってた奴が、あそこで首吊り自殺したらしい」

全員黙り込んでしまった。
俺と田中はいったい何を見たのか分からず、混乱していたと思う。

「寝てて、夢を見た」
沈黙を破るように、山田がふっと口を開いた。

「おまえらが、どっかの部屋にいて、首吊って、死んでた」

三人同時に顔を上げた瞬間、部屋の照明がパッと落ちた。

その刹那、ソファーテーブルの上を、スーと白い人影が通り過ぎた。


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