[女友達の話]
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ちょっと歩くと、葉の落ちた木がたくさん生えていて不気味だった。さらに不気味なことに、つれてかれた林の中の広場みたいなところに、ちょっと大きめのハンマーとダンボール箱が置かれてて、箱の中から猫(それも複数)の泣き声が聞こえてきていた。
「佳織、何あれ? 猫?」
「うん……」
ダンボールを開けると、猫が四匹(野良猫っぽかったけど、わからん)入っていた。
「ねえ、何するの? 一体」
「……これから、順一君の身代わりを作ろうとおもってるの。……お願い! 手伝って!」
「な、何? 身代わりって? わかんねー」
「大丈夫、すぐ終わるし。広志君に頼むのは簡単なことだから」
とりあえず言う通りにしてみた。言われたことは本当に簡単で、順一の体育着に猫を一匹、着せるようにして包み、地面に抑えるようにしていてくれということだった。
「それで、順一君はここにいるって、強く思って。声に出しながらがいいかな……多分」
「ああ。わかったけど……」
体育着にくるまれてくぐもった声をあげる猫を抑えつけ、言われた通りにした。
「ちゃんと抑えててね」
「え? 佳織、それ……」
俺が猫を抑えると佳織が置いてあったハンマーを持って、いきなり振り上げた。一瞬だった。
ボキャッと嫌な音がして、猫は鳴かなくなっていた。体育着にくるんでいたおかげでどうなっているか見えなかったが、頭のあった辺りがどんどん血に染まっていて、しゃれにならなかった。
「お、おま、何、おえっ! えっ!」
「待って! まだ我慢して!」
俺が吐きそうになっていると、佳織は猫を体育着の中からずるりと取り出して、次の猫をくるんでいた。地面に置かれた死んだ猫は頭が見事に砕けていて、たまに痙攣していて、それが見えてとうとう俺は吐いてしまった。

「お願いだから、おさえてて。順一君のためなんだから」
「む、無理……無理……」
「……じゃあ、さっき言った通り、頭の中で思うことだけやって。あと、目は閉じないでこの体育着をちゃんと見てて」
「わ、わかった……」
俺の見てる前で、佳織は足で猫の前足を踏みつけるようにして抑えつけ、今度は三度、ハンマーを振るった。腹がつぶれた猫が地面に置かれた。体育着から取り出す時に佳織の手には血がついてしまっていた。
さらに次に地面に並んだのは四本の脚を砕かれた猫、またその次も同じで、この二匹は凄い鳴き声を上げても生きていた。
最後の方、俺はもう見ていることが出来なくて、本気で怖くて、佳織に何度か注意されたけど目をそらしていた。
佳織はその後、掘ってあった穴に全部の猫を放り込んで埋めてしまった。(まだ生きてた二匹も)
これは俺も手伝った。
「最後の方、ちゃんと見てなかったでしょ?」
「見れないよ。あんなの意味あんのかよ? やばいって! どう考えても……」
「意味あるよ。……あると思う。手足は上手くいったかわからないけど、頭と体は多分大丈夫になったから」
俺と佳織は森林公園から出ると、ほとんど話さないまま家に帰った。血がしみた体育着は佳織が持ち帰った。それから冬休みになるまで、俺は佳織と口をきかなかった。
別に順一に何の変化もなかったし、あの猫は殺し損というか、佳織は単にやばい奴だったと思ったりした。
猟奇趣味に付き合わされただけなんじゃないかと思った。

でもやっぱり佳織は単に危ない奴じゃなかった。
冬休み中に、順一は父方の実家に家族で里帰りして、火事にあった。両親と、親戚が何人か亡くなったらしい。妹さんも重体でやばかったけど、命は取り留めた。
順一はというと、腕に少し重い火傷を負っただけで済んだ。
俺がこのことを知ったのは冬休みが終わってからだった。
順一は難を逃れた伯父夫婦の家に引き取られることになったけど、さらに二週間位してその伯父さんが遺書を残して自殺。
遺書には人を殺したうんぬんが書かれていて、後日死亡のまま逮捕だか送検だかされた。順一の家の近くに住んでた人で、俺も見知っていただけに、これにはホントに驚いた。
順一はすごいショックを受けたようで、見てるのも気の毒だった。
順一はその数日後、ずっと遠くの親戚に引き取られ、三学期はじまって間もないうちに引っ越していった。
佳織の言っていたことは的中していたわけで、俺は佳織とまた話すようになり、ごめんと謝った。
佳織は別に怒ってないと言ってくれたが、俺の質問には嫌がって答えてくれなくて、一年くらいしてようやくこのとき何をしたのか話してくれた。
なんか、いろいろ祟りとか、呪いの原理(彼女なりの理解だと言っていた)を話してくれた。
要は、思い込みの力らしい。今回は猫を順一の体に見たてて、俺たちがそう思い込むことで祟ろうとしてる奴をだまして、あの森林公園で怨みを受けたことにして、順一本人は助かったと言う。
他にも何か言ってたけど良くわからなかった。
というわけで、俺は呪いとか祟りとか、術とかそう言うのは確実にあると思う。実際こういうのを見てしまったわけだし。
俺は「もし俺が死にそうだったら、隠さずに教えてくれ」といって、佳織と友達でいた。それからもいろいろ変な目にあったけど、今も実はかなり仲の良い方の友人かもしれない。
多分、佳織がやばい奴であることに変わりはないんだろうなとは思うが。
あと、猫は直視できなくなった。


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