[池にいた何か]
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さっきより池に近かったから、深夜で真っ暗だったけど見えたって。
「最悪な事に、ソレをハッキリ見てもーた」って言ってた。
すぐ近く。音がした場所に広がる波紋の真ん中、音がしてからちょっと遅れて、
ぽこっと、何かが顔を鼻から上だけ出したんだって。じっとこっちを見てたってさ。
「人間の幼稚園児みたいな顔だけど、目がおかしなとこにあった。」顔が。
目が合ったんだって、その波紋の真ん中の顔と。

そっからはよく覚えて無いらしいんだけど、
「うわーーーー!!」って誰かが叫んで、いや、俺が叫んだのかも知れないって言ってた。
あるいはみんなが叫んだか。
走ってバイクの所まで戻って、彼女が来るのを待ってたのを覚えてるって。
すごく長く感じたって言ってたけど、時間にしてたぶん10秒も無いぐらい。
TZRの人はすでに彼女も後ろに乗ってて、エンジンをかけようとしてたから、
よけいあせったのかも。

とにかく、気が狂いそうな程怖かったから、彼女が泣きながらノロノロ走ってくるのに
我慢できないぐらい腹がたった覚えがあるんだって。
その時確かに聞こえてたから。
池の方から「ケケケケケケケケケケケケ」って子供のような笑い声。

後で彼女も聞こえてたって言ってたらしいよ。その笑い声。
しかもその時ノロノロとしか走れなかったのは、腰が抜けてたかららしい・・・。
人間て、腰が抜けてても走れるもんなんかな。

とにかく、彼女がようやくたどり着いてバイクの後ろに乗った時には、
すでにCBRのエンジンがかかってて、いつでも出れるようになってたんだけど、
どういうわけか、TZRの方のエンジンがまだかかってない。

知ってる人もいるだろうけど、CBR(250R)ってのはセルっていうボタンでエンジンがかかる。
だけど、TZRってのは2ストで、キックっていうレバーを踏み込んでエンジンをかける。
TZRの人は狂ったように何度も何度もキックを踏んでるんだけど、まるでかからない。

CBRの人は、自分の彼女を待つだけでも怖くて怖くて仕方がなかったのに、
今度はTZRのエンジンがかかるまで待たなきゃならない。
だけど、公園の入り口近く、池じゃなくてすぐ近くから「ケケケケケケケケケケ!!」
って聞こえた時に、迷わずTZRの人達を置いて逃げた。
池にいた何かが、池を出てフェンスを越えて自分達のすぐ近くまで来てるってわかったから。

続く