[魔漏]
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帰りの車の中、A美が、腰が痛いと頻りに訴えるので、私は彼女の腰をさすってあげた。
「そんな変な御守どうするの?」と私が訪ねると、
妹は「なんか怖かったから、厄除けにもらった。」と答えた。
Rの実家には、予定の午前1時より少し前に着いた。
義父と義母が私達を出迎え、居間に通してくれた。義父は町役場の古株で、義母は教員。
二人ともこの町の生まれで、郷土史研究を趣味にしている。
新年の挨拶を手短に済ませた後、私と妹は客間で寝ることになった。
寝屋の支度をしていると、A美が、小さな飾り棚に置いてあったお手玉を手に取り、
「珍しいね。私、やったことがないや。」と言った。私達は、程なく床に就いた。

その夜更け、私は物音で目を覚ました。
慌てて部屋の明かりを点けると、隣で寝ていたA美が白目を剥き、口から泡を吹いて
痙攣している。私は驚いて「A美、A美」と何度も妹の名を呼んだ。
声が聞こえたのか、隣の部屋で寝ていた夫が飛び込んできた。
気が付けば、妹の発作は治まっており、スヤスヤと寝息を立てている。
私達は安心し、寝床に戻った。

明け方、私は再び物音で目が覚めた。A美が隣にいない。台所から音がする。
私は、恐る恐る台所を覗いた。A美が屈んでいた。冷蔵庫の扉が開いている。
なにやら、ぐちゃぐちゃと音がしていた。
見れば、A美は片手に大根を、片手に生肉を持ち、凄まじい形相で貪り喰っている。
私が、「親戚の家で、なんて真似を!」とA美を叱り、腕を掴んだが、妹は従うどころか、
私を振り払い、無言で食事を続けた。彼女の口の周りは、牛肉の血で染まっていた。
妹は、存分に食物を喰らった後、すっと立ち上がり、私には目もくれずに脇を通り過ぎて、
客間へ戻った。私は、急いで妹の後を追った。

続く