[魔漏]

客間に戻ると、お手玉で遊ぶA美の後姿が目に入った。
何故か異様に上手で、耳慣れない唄を口ずさみ、五つ一遍に、延々と投げ続けた。
その顔には不思議な薄ら笑いが浮かんでいる。
私は気味悪く感じたが、とにかく気にしない事にして、三たび、床に就いた。
眠りについた私は、しかし、直ぐに誰かに揺り起こされた。
目を開くと、A美が私の上に覆い被さり、目を大きく剥いて、鼻がくっつく程近くで
無表情に私の顔を見つめていた。
「お話して。あんころもちとか、瓜子姫とか。」彼女が言った。
私は驚いて、すぐに顔をA美から離して、「あんころ?何?わかんない。」と答えた。
すると、妹は、突然私の首を両手で締め上げた。その余りの力の強さに、私は声も出せず、
必死に足をばたつかせ抵抗した。A美は薄ら笑っていた。

すぐに、隣室のRが、続いて義父と義母が飛び込んできて、三人がかりでA美を
取り押さえた。両手足を封じられたA美は、狂人の如く?いて、義父の腕に齧り付く。
義父は、すぐに逃れたが、腕には鮮血が迸り、深い口創が刻まれた。
それでも、三人は何とか、荒れ狂うA美を御し、紐で何重にも柱に括り付けた。
A美は、大きく目を剥いて私達を睨み、頭を激しく振回して「殺してくれるわ!!」
と、大声で喚き続けた。時折、おぞましい声で泣き叫んだ。

朝になって、義父がH神社の宮司に電話をかけ、宮司が家に駆けつけた。
宮司は、暴れる妹の姿を見て苦笑しながら、「あれはどこだね?」と義父に尋ねた。
義父は、私と夫に、「何か御守の様な物をもらったか?」と訊いた。
私は、飾り棚の上から例の御守を取ってきて、宮司に渡した。
「やはり。こりゃ、マモリだ。」宮司はそう呟き、H神社でA美に処置を施すからと、
義母に同行を求め、すのこで妹を簀巻きにして、車に載せて去って行った。
一行を見送った後、義父が突然、Rを怒鳴りつけた。「お前が一緒に居たんだろうが!!」
夫は下を向き、唇を噛んだ。

続く